【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】言葉だけを聞くと一瞬、言い過ぎじゃありませんかと突っ込みたくもなる。しかし、その真意を確かめると「なるほど」とも思う。「浪速の春団治」の異名を取った虎のOB会長・川藤幸三氏(71)の「深イイ話」には、現在の阪神に通じるものがあると感じる。

 以前、川藤氏に若虎の心構えに関して質問したことがあった。すると「ワシらはなあ、ポジションのかぶる先輩やライバルにはいつでも『ケガせんかい』と思うとったもんや」との答えが返ってきた。

 これは少々、乱暴。それではチームとして戦力ダウンとなるし、トータルでマイナスではないのか。そう問い直すと、粋なセリフが返ってきた。

「アホウ、誰も他人の不幸を願えとは言うとりゃせんのや。いつ、誰にアクシデントが起こっても『ワシが試合に出た方が絶対に結果出したるぞ』というぐらいの準備をしとけということやないか。全員がそう思うとるチームは強いんじゃねえのか」

 くしくも25日、阪神は新型コロナウイルス感染の影響で10選手が出場登録を抹消され、混乱の中でヤクルト相手に2連敗を喫した。ところが27日は、アクシデントに屈しなかった虎ナインが連敗を3で止めた。感染した選手と濃厚接触者扱いと認定された木浪に代わり、遊撃に入った20歳の小幡が決勝打。右脇腹を痛めて離脱中の正捕手・梅野に代わり、原口が同点弾を含む2安打3打点と気を吐いた。

 今季、セ・リーグではクライマックスシリーズは開催されない。そんな中で残り40試合を切って首位・巨人とは12・5ゲーム差。このままでは寂しい限りだ。ファンを喜ばせることが矢野阪神のテーマとするならば、やるべきことは決まっている。

 29日からチームは13連戦に入る。大型入れ替えもあり、救援陣を中心に厳しい戦いは続くが、虎党への何よりの贈り物は白星だ。週末には巨人との4連戦も待っている。恐らくこんなとき、川藤OB会長はこう言うだろう。「巨人の前で意地見せたらんかい」と。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。