第94回選抜高校野球大会の出場32校が決定した。今大会の注目は、何と言っても昨秋東北大会を制し、4年ぶり4回目の出場を決めた花巻東(岩手)。その中軸に座る怪物スラッガー・佐々木麟太郎内野手だ。高校1年生ですでに50本塁打をマークする〝みちのくの怪物〟は、初見参となる甲子園でどんなドラマを見せてくれるのか。一方で、そんな怪物には早くもメジャーが調査を開始している。佐々木が高校3年生となる来年2023年に「即メジャー挑戦」を目指す可能性に備えてのものだ。


 日米の球界事情に詳しいメジャー関係者はいう。

「近年、日本でトップの高校生が母国のプロ野球を経ずにMLBに行こうとした事例が2例ある。そのいずれもが花巻東という岩手の同一私立高校で起きた事例で、2009年に菊池雄星、12年に大谷翔平という高校生がそれを望み、社会問題となった。3例目が起きるとすれば、甲子園の常連・大阪桐蔭でも横浜高でもなく、やはり花巻東になると思う。そして、3例目の可能性がある今回は、その事例を指導者として望み、後押ししてきた監督さんの息子という特殊な背景がある。『教え子』という他人の子供でなく、自分の息子をどう扱うのか。佐々木監督を知るメジャー関係者は皆その一点に注目しています」

 菊池、大谷の事例は言わずと知れた日本球界、ドラフトを揺るがす大騒動となった。菊池は国内12球団の他にメジャー8球団と面談を行い「まだまだ自分のレベルでは世界で通用しないと思いました。日本の方全員に認められてから、世界でプレーしたいと思いました」と、この段階でのメジャー挑戦を断念。6球団の指名が競合したドラフトで交渉権を引き当てた西武に入団し、その9年後に渡米した。

 その〝雄星騒動〟から3年後、今度は夏の岩手県大会で160キロを叩き出した大谷がNPBを経ずに「即メジャー挑戦」の意思を表明。「日本のプロよりもメジャーリーグへのあこがれが強い。マイナーからのスタートを覚悟の上でメジャーリーグに挑戦したい」と菊池よりもメジャー行きに近づいた。

 しかし、ドラフトでは日本ハムが大谷を強行指名し「投打二刀流」「メジャーに行くだけでなく成功するための育成」を提案し翻意させた。大谷は日本ハム5年の在籍でメジャー移籍をかなえ、昨年のア・リーグMVPにつなげた。

 菊池、大谷ともに高校から即メジャー挑戦の夢はかなわなかったが、そもそもメジャー側は高校生が単独でメジャー挑戦を志向しているとは信じていない。

 あるア・リーグ球団スカウトは「もちろん、佐々木監督の指導者としての夢がそこにあるからですよ」としこう続けた。

「花巻東の理念でもある『岩手から世界へ』を菊池と大谷で実現させ、佐々木さんは確固たる地位を築いた。あとは2人のメジャーリーガーでは果たせなかったその年のトップ高校生が、NPBを経ずに即メジャー挑戦という野望を麟太郎くんで実現させるのかどうか。常日ごろから『常識を疑え』『非常識を常識に変える』と指導している監督さんですから、可能性はゼロではない」

 佐々木麟太郎の進路に関してはメジャースカウトだけでなく、これまでも菊池、大谷、そして大船渡・佐々木朗希を追いかけてきた大物代理人、スコット・ボラス氏の事務所関係者も23年に向けた動きを見せている。

 センバツで佐々木の評価をリポートする前に、メジャーが早くも怪物1年生スラッガーの進路に慌ただしくフォーカスし始めている。


【清宮の“倍”ペースで本塁打量産】名門・花巻東に現れた「3人目の怪物」が佐々木麟太郎だ。同校OBの菊池、大谷(エンゼルス)に続き、実父・佐々木洋監督の指導の下で急成長を続ける左の長距離砲は、日米プロ各球団の間で「末恐ろしい1年生」として早々と密着マークされている。

 身長183センチ、体重117キロの恵まれた体格を駆使し、フルスイングでとらえた打球を軽々とスタンドへ叩き込む姿は1年生としてまさに「規格外」だ。初の全国舞台となった昨年11月の明治神宮大会では3戦2発、10打数6安打9打点と脅威的な数字を残し、球界関係者たちに衝撃を与えた。

 ちなみに、その明治神宮大会終了時点で佐々木は高校通算本塁打を49本としている。高校最多の111本塁打を放った当時早実の清宮幸太郎(日本ハム)が1年秋の時点で22本だったことを考えれば、佐々木のペースは「清宮以上」。ここまで公式戦12発、高校通算で50発を叩き出している怪物1年生がセンバツの檜舞台で本塁打をどこまで量産させるかが注目される。