長い夜の終わりに、千両役者の一振りが待っていた。巨人は13日の広島戦(福井)に4―2で逆転サヨナラ勝ちを収め、2夜連続の劇勝を飾った。主役は途中出場の坂本勇人内野手(37)だった。1―2で迎えた延長12回一死一、二塁。広島・遠藤の初球を迷わず振り抜くと、打球は左翼席へ一直線。プロ通算300号のメモリアルアーチは、4時間43分の死闘を終わらせる逆転3ランとなった。

 勝利を信じて残った福井のG党は総立ちとなり、ベンチも一気に沸騰した。坂本勇は「サヨナラっていう形で決められたこともすごく良かった。1本1本積み重ねてきたものなので、特別うれしい」と目を潤ませながらかみしめた。阿部慎之助監督(47)も「ファーストストライク、得点圏で打てたのはすごいこと」と最敬礼。その上で「チームとして他の打者を見ても、その勇気がない。メンタルで負けている選手もいる」と、ベテランの一振りを若手への強烈な教材にも位置づけた。

サヨナラ3ランを放った坂本勇人を祝福する巨人ナイン
サヨナラ3ランを放った坂本勇人を祝福する巨人ナイン

 現在の巨人はヤングG主体の新体制へ移行する過渡期にある。13日終了時点で38試合20勝18敗、首位と3・5ゲーム差のセ4位。上位を射程に入れる一方でチーム内の競争は激しさを増し、坂本勇の出場機会も年々減ってきた。本人も「もう本当に300号を打てないんじゃないかと考える時期もあった」と明かすほど、節目への道のりは平たんではなかった。

 それでも背番号6の存在感は色あせない。チーム関係者は「勇人の存在は相変わらず大きい。ベンチにいるだけで緊張感を作れる選手はそういない」と証言。若手選手の一人も「『あの坂本勇人とプレーしているんだ』と思い出して初心に帰ることがある」と敬意を隠さない。

 その名は海の向こうにも届いている。台湾メディア関係者は「今でこそ大谷翔平(ドジャース)が人気だが、坂本勇人も同じくらい知られている。伝統ある巨人軍のレジェンドとして、台湾の野球ファンにも深く浸透している」と評する。

 記録の価値だけではない。チームが苦しい夜、最も必要な場面で試合を決めたからこそ、この300号は重い。若手に道を譲るだけの存在では終わらない。坂本勇は今もなお、巨人の空気を換えられる「顔」であり続けている。