ゴジラの中で〝ミスター〟が目を覚ましたのか。巨人の松井秀喜新監督(52)が23日の就任会見以降、異彩を放っている。目を大きく見開き、一語一句に力を込める一方、相手の問いには柔らかな相づちと絶妙な〝間〟で応じ、周囲を和ませる――。その姿に重なるのは昨年6月、89歳で亡くなった恩師・長嶋茂雄元監督の面影だ。背番号「90」に託した思いだけではない。早くも「シン・ミスター」の片鱗が漂い始めた。

 巨人の監督という重責が〝日米レジェンド〟の存在感を一変させた。23日に都内で行われた就任会見で松井監督の言葉には、かつての「ゴジラ」とは一味違う迫力と重みがあった。大きく目を見開き、一語ずつ刻み込むように決意を語る。その強い視線と熱のこもった口調は、表情や所作まで駆使して思いを伝えた長嶋元監督をほうふつとさせた。

巨人のキャンプを訪れた長嶋茂雄氏と松井秀喜(2016年)
巨人のキャンプを訪れた長嶋茂雄氏と松井秀喜(2016年)

 ただ、力強さ一辺倒ではない。質問を受ければ「うん」と相づちを打ち、「うーん、そうですね」と一呼吸。考える時間さえ自然な会話の一部にしてしまう。沈黙が気まずさに変わるどころか、次にどんな言葉が飛び出すのかと聞き手を引きつける。張り詰めた場にも笑みを生む独特の呼吸は、言葉一つで空気を変えたミスターの姿と見事なまでに重なる。

 27日に川崎市のジャイアンツ球場を訪れた際にも〝松井節〟がさく裂。現役時代の秋季キャンプで大事にしていたことを問われると、白い歯をのぞかせつつ「忘れちゃいましたよ。覚えてないよ」と返答。米国には秋季キャンプがないことを理由に挙げ、報道陣を笑わせた。ところが選手への注文となると一転。「選手おのおのね、自分でやっぱり考えて決めるんじゃないですか」と自覚を促し、「それは秋だけじゃない。野球選手としてですね、時期関係なく」と説いた。和ませる時は和ませ、伝えるべきことは真っすぐ伝える。その切り替えが鮮やかだ。

 もちろん、恩師の単なるコピーではない。松井監督自身、就任会見で「私は長嶋茂雄にはなれません」と明言している。その一方、指揮官としての第一歩に選んだ背番号「90」は長嶋元監督が第1次政権で背負った番号で、存命なら今年90歳だったことにも由来する。会見のスーツも2013年に師弟で国民栄誉賞を受賞した際と同じもの。心の中には常に恩師がいる。

 会見後に出演した日本テレビ系「news every.」では、普段から「監督だったらこれどうするかな」と思いを巡らせることがあると告白。会見に臨む前にも、心の中で「これから行ってきます」と報告したという。監督就任は、単に恩師の背番号を受け継ぐ儀式ではなかった。判断に迷えば師の姿を思い浮かべ、その情熱を自分なりの言葉や振る舞いに置き換えていく。そんな姿勢が会見や取材対応ににじむ〝ミスターの面影〟を、単なる偶然では片付けられないものにしている。

 古くから2人を知る球団OBらの周辺でも、監督就任を機に松井監督の雰囲気が変わったとの声が聞かれる。「地位が人をつくる」とはよく言ったもの。長年培った気配りやユーモアに名門を率いる責任感が加わり、眠っていた資質が表に出てきたのかもしれない。

 恩師の情熱を胸に、日米で磨いた独自の流儀を重ねる。長嶋元監督が〝降臨〟したかのような存在感を漂わせながら目指すのは誰の代役でもない、新時代の巨人の顔。30日を初日とするジャイアンツ球場での秋季キャンプでは、その言葉や所作が選手たちにどんな刺激を与えるかも注目される。〝シン・ミスター〟松井監督の真価が問われるのは、まさにこれからだ。