西武・栗山巧外野手(42)が自身の引退試合となった30日の楽天戦(ベルーナ)に「6番・DH」で先発出場し、8回の第4打席で中前打を放ち、25年間の現役生活に別れを告げた。歴代27位となる通算2152安打を記録した打撃職人が見せた背中と〝葛藤〟とは――。

 西武ひと筋に生きた栗山は打席数や四球、犠飛などで球団1位を記録。その中でも球界きっての存在であることを示したのが二塁打の数だった。通算406本は歴代14位。誕生から90年を超えたプロ野球の歴史上、400本超えを果たしたのは15人しかいない。

引退セレモニーを終え球場を一周する栗山巧
引退セレモニーを終え球場を一周する栗山巧

 神の領域ともいえる金字塔を打ち立てられたのは、本人のたゆまぬ鍛錬だった。レギュラーに定着した2010年代もすべてが野球中心の生活。当時、週末の本拠地公式戦のほとんどは金曜がナイター、土日はデーゲームで行われた。試合への準備、調整の時間がタイトになるため、栗山は自宅に帰らず球団関係者に依頼して球場から最も近いホテルに宿泊。球場と自宅を往復する時間も削り、自分を高めることに心血を注いだ。

 試合前も試合後も球場に隣接する室内練習場でマシンを相手に黙々と打ち込む姿は日常茶飯事。その姿はまさに〝無言の教材〟だった。

 11年に西武に入団し、15年にシーズン最多安打(216安打)を樹立した秋山翔吾外野手(広島)もすごみに触れた一人だ。

「僕より前に栗山さんが打っていて、打撃ケージに入ったら絶対に先には終われなかった。すでに栗山さんが打つレーンは、足の踏み場もないほどボールが転がっているんですけど、そこからボールケースを何箱も」

 当時、若手だった秋山や浅村(楽天)は、そんな栗山の背中を見てバットを振り込み、現在に至っている。

 栗山をやや上回る通算2167安打、歴代6位の429二塁打を残した稲葉篤紀氏(日本ハム二軍監督)も技術高さを認める一人だ。

「投球に対し、バットを点じゃなく面で追えるスイング軌道の良さ。打つゾーンが広いから当たるし、拾える。誰もが求めたい技術だけど、それがなかなか難しい。でも、クリにはその技術があった。練習を通じて培ってきたんだと思う。今も西武の方と話すと『クリは誰よりも練習している』と聞く」

 ただ、年齢を重ねれば、誰しも衰えにぶつかる。おととしのファームの試合前、栗山は稲葉氏のもとに赴いていた。稲葉氏に打ち明けた内容は、捉えたと感じたはずの直球にやや差し込まれていた…というキャリア晩年を迎えた多くの選手が直面するもの。稲葉氏は球界の先輩として自身の体験をひと通り伝えた後、人知れずもがいていた栗山の背中をこう押したという。

「今の年齢、立ち位置での背中をみんなが見ている。苦労していること、できないことを悩んだり、そういう姿を見せること。そこに懸命に取り組む姿を見せることが、これからのライオンズのためにもなると思う」

 近年の栗山は出場機会も減り、ファームで過ごす時間も多くなっていた。それでも全盛期と同様にストイックな姿勢を変えることなく、今季も当たり前のように室内で打ち込み、打席で存在価値を示してきた。

〝ミスター・レオ〟と呼ばれる打撃職人は、最後の最後まで愚直なまでの準備でプロ野球選手の「成功者」としての姿を示し続けた。