プロ野球の風景が、また一つ変わろうとしている。来季からセ・リーグにもDH制が導入されることで打線の組み方だけでなく、ドラフト戦略の発想にも変化が及びそうな気配も漂う。その先に見えてくるのは、ドジャース・大谷翔平投手(31)がMLBで体現する二刀流の価値が、日本球界でもより現実味を帯びていく未来だ。その変化の深層を追った。

 これまでパ・リーグに限られていた指名打者制が、来季からはセ・リーグにも広がる。そうなれば、今秋のドラフト会議も「次年度から打線に野手が1人増える」という前提のもとで組み立てられていく。守備力や走力に多少の不安があっても、それを補って余りある打力を持つアマチュア選手に従来以上の視線が注がれる――。そうした見方は早くから出ていた。

 しかしながら現場でスカウトの声を拾っていくと、浮かび上がる未来図は少し違う。東都および首都大学リーグ・春季リーグ戦を視察したセ・パの複数球団のスカウトに、前出のテーマをぶつけると意外な見立てが返ってきた。その中の一人が「数年後の指名打者枠は、打つだけの人に割り当てられる場所ではなく『打てて、投げる人』に割り当てられるのが、当たり前になるかも」と漏らしたように、各球団のスカウトは異口同音に同様の見解を口にしたのである。

 つまりDH枠は打撃専任の居場所としてではなく「二刀流選手の能力を最大化するための枠組みへと変わっていくかもしれない」との分析だ。大谷のように「1番・投手」で先発し、降板後はそのまま指名打者として打線に残る。逆に、打者として出場した後に登板するケースも想定される。今後は、そうした起用法がより一般的になっていくのかもしれない。

 実際に将来のプロ入りを目指す学生球界でも、二刀流はもはや珍しい存在ではなくなりつつある。関西六大学リーグでは、2027年ドラフト候補に挙がる大商大・中山優月選手(3年=20)が5日に行われた大阪経済大2回戦(GOSANDO南港野球場)に「5番・投手」で先発し、降板後は三塁手としてプレー。打っても押し出し四球と二塁打を記録し、二刀流の存在感を印象づけた。

 関東にも楽しみな原石がいる。東都リーグ6連覇中の青学大で、8日の亜大との開幕戦(明治神宮野球場)に「1番・右翼」で抜てきされた新井瑛太選手(1年=18)だ。高校時代から最速150キロ超の速球を誇った右腕で、同リーグの公式プロフィルでも「投手兼外野手」として紹介される逸材。大学球界でも、いずれ投打二刀流デビューが期待される素材とみられている。

 スカウトたちが口をそろえるのは、こうした流れが一時的な話ではないという点にある。職歴30年のベテランスカウトは「何よりも指導者の考えが、変わったことが大きい。投打に有望な選手でもひと昔前なら『どちらかに絞れ』というのが当然とされていましたけど、今はその逆。学生が望むのであれば、指導者は両方やらせる、背中を押すのが今の時代の流れ」と指摘した。

 かつては分業が前提だった育成現場が、今は可能性を狭めない方向へとかじを切っている。そうであれば、セ・リーグへのDH制導入が意味するものも、単に「打てる野手が1人増える」という話だけでは済まない。近未来のNPBで指名打者とは打撃専任のポジションではなく、投打二刀流を最大化するための戦術枠として再定義される可能性がある。ドラフトの評価軸が変わるとすれば、その兆しはすでにアマ球界の現場に表れ始めている。