第98回選抜高校野球大会の出場校が30日に発表され、明治神宮大会を制した九州国際大付(福岡)が順当にセンバツ出場を決めた。

 神宮王者として迎える春だが、チームは王者ではなく挑戦者として聖地に立つ。その原動力となっているのが、現役時代に日米通算4367安打を放ったイチロー氏(52)から昨秋に受け取った言葉と姿勢だ。ナインはその思いに、センバツ優勝という結果で恩返しをする覚悟を固めている。

 九州国際大付にとって、イチロー氏の来校は「神宮大会優勝後の出来事」でありながら、その影響は優勝以前からチームに及んでいた。来校が決まったのは昨年10月下旬。明治神宮大会開幕前から、ナインは「恥ずかしい姿は見せられない」という意識を強く持ち、日々の練習に臨んでいた。声の出し方、ウオーミングアップ、キャッチボールの一球一球に至るまで、細部への意識が変わっていった。同11月19日の神宮大会決勝で全国制覇を成し遂げた背景には、すでに芽生えていたその緊張感と覚悟があった。

 イチロー氏が同校のある福岡・北九州市を訪れたのは、神宮大会優勝後の11月下旬。2日間の指導のうち、初日はグラウンドで実施され、2日目は雨のため室内練習場に場所を移した。環境が変わっても、示された姿勢は一貫していた。単なる技術指導ではなく「なぜその動きをするのか」を言葉で示し、選手一人ひとりに問いかける時間が続いた。

昨秋、九州国際大付の部員に盗塁の指導をするイチロー氏(代表撮影)
昨秋、九州国際大付の部員に盗塁の指導をするイチロー氏(代表撮影)

 主将の城野慶太捕手(2年)は「一球一球に向き合う集中力、準備の質が全然違った。キャッチボールひとつでも試合を想定していて、技術以上に野球への向き合い方を学んだ」と振り返る。二塁送球やキャッチングの精度を評価されたことは自信になったが、それ以上に「考え続ける姿勢」を突きつけられた2日間だったという。イチロー氏が繰り返し口にした「挑戦者であれ!」という言葉は、実践とともにナインの胸に刻み込まれた。

 エース右腕の渡邉流(2年)も刺激を受けた一人だ。投手でありながら打撃や走塁の話にも耳を傾け「感覚を言語化すること」の重要性を学んだ。「分かっているつもりでも、言葉にできない動きは本当の意味で理解できていない」。その気づきは、投球の再確認や練習の質の向上につながっている。

 楠城祐介監督は、来校が決まった段階からチームの変化を感じ取っていたという。「イチローさんが来られると分かってから、グラウンドにゴミが落ちていたらどう思われるか、というところまで意識するようになった。勝ったから来ていただいたのではなく、来られることが分かっていたからこそ、日常が変わった。我々の背中を押していただいたと思っています」。来校後もその意識は途切れることなく、この冬はスローイングや基礎練習を徹底。控え選手の肩力向上など、チーム全体の底上げが進んでいる。

 戦力も整う。安定感ある投球で試合を作るエースの渡邉を軸に、攻撃陣にはプロ注目のスラッガー・牟礼翔(2年)が控える。神宮王者として注目を集める立場だが、慢心はない。城野は「自分たちは王者じゃない。常に挑戦者」と言い切る。

 イチロー氏から受け取った言葉と姿勢は、すでに過去の出来事ではない。挑戦者として第98回センバツに臨み、頂点に立つことでこそ真の〝恩返し〟を果たす――。九州国際大付は今も、その歩みを止めていない。