これは神話崩壊の予兆なのか。今も昔もMLB選手会は「選手の味方」であり続けてきたはずだ。しかしながら今、その前提が音を立てて崩れ去ろうとしているのかもしれない。

 米有力紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」が18日(日本時間19日)に報じたところによれば、米ナショナル・フットボールリーグ(NFL)選手会(NFLPA)の副法律顧問ヘザー・マクフィー氏が組合幹部による不当な報復を訴え、連邦訴訟を提起した。この問題はNFLにとどまらず、MLB(米メジャーリーグ機構)選手会(MLBPA)を直撃する構図となっている。

 発端は、NFLPAとMLBPAが共同所有するライセンス会社「ワンチーム・パートナーズ」を巡る内部告発だった。マクフィー氏は幹部に多額の報酬をもたらす「シニア・エグゼクティブ・インセンティブ・プラン(SEIP)」が、受託者責任や労働法に抵触する可能性があると警告。これをきっかけにFBI(米連邦捜査局)が刑事捜査に着手したとされる。

 問題の核心は単純だ。選手の利益を守る立場の幹部が、自らの報酬を優先していたのではないかという疑念である。訴状ではSEIPが利益相反を内包し、一般選手よりも幹部が有利になる仕組みだった可能性が指摘されている。そしてあろうことか、MLBPAの専務理事(エグゼクティブ・ディレクター)を務めるトニー・クラーク氏(53)の名も、この文脈で浮上している。同氏は名だたるメジャーリーガーたちの間でも絶大な信頼を得ていた人物だけに、MLBPA内部に生じる動揺の大きさは計り知れない。

 この問題がMLBファンにとって無関係でいられない理由は明白だ。ドジャースの大谷翔平投手(31)、ムーキー・ベッツ内野手(33)、ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(33)といった「超大型契約世代」は、選手会の交渉力と透明性を前提にキャリア設計を行ってきた。もし選手会が裏で幹部優先の金銭スキームを動かし、さらにはNFL側と連携して契約情報を隠蔽していたとすれば、スター選手が信じてきた〝防波堤〟そのものが揺らぐ。

 前出のマクフィー氏はFBI捜査に協力する意思を示した後、2025年8月に「職場での不適切行為」を理由に有給休職処分を受けた。本人はこれを全面否定し、「証言を封じるための口封じであり、性差別を伴う報復だ」と主張。少なくとも1000万ドル(約14億円)の損害賠償を求めている。

 選手会はこれまで「オーナーvs選手」という単純な構図の中で、常に選手側の正義を体現してきた存在だった。しかし今回の訴訟は、その内部に権力構造と利権が存在していた可能性を突きつけている。

 大谷が史上最大級の契約を結び、MLBがかつてないスター主導の時代に入った現代だからこそ、選手会の信頼性は生命線だ。その神話が崩れたとき、影響を受けるのは一部の幹部のみにとどまらないだろう。次に揺らぐのは、MLBという巨大ビジネスの土台そのものかもしれない。