【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「僕にとってはオムツ替えもリワード(ご褒美)をもらっているような時間だよ」

 その人の周りにいるだけで、スッと引き込まれるような不思議な存在感を放つ人は誰かと聞かれたら、私は迷わずアーロン・ジャッジと答える。声のトーン、話すスピード感、相手を待つ姿勢。メジャー入り当初から独特な空気をまとっていた彼に、今年5月、一段と柔らかさが加わったと感じた。1月に生まれた愛娘ノラちゃんパワーだ。

「一番変わったのは、やっぱりプライオリティーかな。これまでの人生はずっと野球が一番で、特にドラフトされてからはチームのために自分ができることを全力でやることだった。でも父親になってみると、確かに野球は僕にとって大事だけど、娘のそばにいてできる限り支え、成長を見守ることが自分の中で自然と一番になってるんだよね」

 それは新米パパとしての生活について聞きたいと伝えた時の、彼の快諾ぶりにも表れていた。少しかわいらしいと感じるほど、いとおしそうにノラちゃんの話をする。

「例えば、4打数ノーヒットの夜は、ちょっと自分を責めながら自宅に帰る。家に着いて娘の顔を見て笑顔を見ると、一気に気持ちが切り替わる。仕事でのいい日も悪い日も、彼女に会った瞬間にちっぽけなことに思えてくるんだ」

 生後4か月でだいぶ大きくなったノラちゃんは、この時のロサンゼルスで遠征デビュー。「僕らは西海岸での試合が好きだから、妻が『今回は一緒に』って。ありがたいことに、娘は夜通しぐっすり寝てくれるようになったから、だいぶ楽になったよ」と何気なく語ったアーロンだが、春先は2~3時間おきの授乳にも一緒に起きてヘルプしながら球場に通っていた。

「確かに最初は毎日寝不足で、なかなかキツかったね。でも、正直すごく楽しかった。人によってはオムツ替えを嫌がる人もいるけど、僕は替えてあげるのが大好き。妻を手伝っていると実感できるし、彼女は妊娠中の9か月間ずっとお腹の中で育ててくれたから、少しでも負担を減らしてあげたくて。『いいよ、昼寝してきて。こっちは任せて』って。できる時は、僕にとってはリワードのような時間で。数週間かけて新しいルーティーンに慣れていったよ」

 病院の看護師さんらに真っ先に教わったオムツ替えは「今や僕はかなりのプロフェッショナルだよ」と自負できる腕前で、それ以外にもミルク作りや哺乳瓶の洗浄、昼寝の寝かしつけと起こし、ベビーカーでの散歩…本当になんでもやるらしい。それは育児というより、アーロンにとっては「一緒に過ごす時間」に他ならない。

「前はビデオゲームをしたり友達と出掛けたり、ちょっと良いディナーに行ったりしていたけど、今は『寝る前に数分でも一緒に過ごす』『朝、コーヒーを飲みながら娘とまったりする』とか、そういう時間が一番大事になってる。毎日が楽しいよ」

 生まれて程なくしてシーズン入りしているため、目まぐるしい日々だったはずだが、寝不足のアーロンは5月下旬まで打率4割を超えていた。アーロンは「それは間違いなく、娘が力をくれているんだと思う」と、ことさらうれしそうに笑った。

「人生に新しい目的ができた。また1つ、球場に来て最高の自分を見せる理由ができたんだ。娘はまだ自分が何を見せられているか分からないだろうけど、それでもスタンドで見てくれてるって僕は知っているから、彼女のためにベストを見せたいんだ」

 ダディパワーでつかんだ今年のMVP。朝のコーヒーを入れながら、ノラちゃんとお祝いしただろうか。