【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】秋晴れが美しいシアトルの日曜日の朝。レギュラーシーズン最終日は決まってナイターからのデーゲームで、しかもなぜか普段よりも試合開始が1時間早い。クラブハウスに漂う穏やかな空気の中で目をこすり、必死にあくびをこらえようと口元に力を入れていたところ、「おはよう!」を連呼して記者一人ひとりとグータッチを交わしながら入ってきた、元気いっぱいの選手で目が覚めた。

 守護神のアンドレス・ムニョス。地元記者が「球界一、ナイスな選手」と言った意味がすぐに分かった。インタビューを快諾し、愛にあふれた対応。彼の母国語はスペイン語で、時折知らない単語があっても熱心に気持ちで伝えてくるタイプだ。

 本当は違う話題を探ろうと思ったが、ファンの間でも有名なアンドレスの愛猫「マチルダ」の名前を出したところ、彼の表情がパッと明るくなった。

「僕は動物が大好き。あらゆる動物のお世話をしたい。特にペットは僕らの一番身近な友達だから、守ってあげなきゃ」

 動物好きは家系だそうで「その昔、祖父が25匹の犬猫と住んでいて、みんなで同じベッドで寝てたんだって。信じられないけど、写真も残っているんだ。母の家には犬が9匹、猫が8匹。みんな家の中で過ごしているから、スペースの関係で大きなソファを置けなくなった。僕もメキシコの自宅には今、犬4匹と猫が5匹いるよ。兄たちが見てくれている」と言う。

 メキシコにはまだまだ野良犬や野良猫が後を絶たない。そんな動物たちを見るとアンドレスは保護せずにはいられず、家に連れ帰っては世話をし、元気になったら引き取り手を探す。

 情が湧いて家族の一員に迎えるパターンも多く、真っ白な毛並みのメスのペルシャ猫「マチルダ」もメキシコで保護したうちの一匹。そのマチルダだけが米国で夫妻とともに生活している。

「彼女は特別なケース。いい飼い主さんに大切に育てられていたけど、家庭の事情で別の人が引き取り、その人たちが全く面倒を見なかったんだ。出会った時はひどく衰弱していて。本当にショックで見捨てられなくてすぐに引き取った」

 2年間放置されたマチルダは当初、触れることもできないほど人を警戒していたが、長いリハビリを経て夫妻に心を許すようになった。アンドレスは「まだ完全じゃないけどね。知らない人がいると部屋の隅っこに隠れて出てこない。どれだけ独りぼっちだったのか、どれだけ苦しんだのか…。僕らには分からない心の傷が残っているんだ」

 他人に預けられず、マチルダは妻ウェンディさんとともに遠征先にも飛ぶ。チームのホテルで一緒に過ごす様子などを公開した今ではすっかり人気者となり、球場にマチルダ宛てのプレゼントも届く。

「『マチルダは元気?』『今回は一緒かい』って僕よりも猫のことを先に聞いてくれる人も多い。ファンの人たちが野球だけでなく、僕の家族の一員として彼女を受け入れてくれているのが本当にうれしい」

 さらにアンドレスはクローザーとして成功したのは「マチルダのおかげ」とまで考え「猫で好きなのは、どんな時も態度が全く変わらないこと。マチルダは僕が最高の登板をしようと最悪の登板をしようとエキサイトもせず、いつも静かに穏やかに迎えてくれる。家に帰ると、現実に引き戻される。地に足をつけさせてくれる大切な存在なんだ」と感謝しきりだ。

「僕が遠征でよく留守にするでしょ? だからベッドでは妻の横、僕が寝るあたりに寝るようになったんだけど、最近ではそこじゃないと怒るから、僕はいつもベッドの端っこに追いやられてるんだ。せっかくキングサイズなのに…」

 そう笑ったアンドレスの夢の一つは、メキシコに動物保護施設を建てることだ。マリナーズには、そんな大きなハートを持った男が最後にドンと控えている。

 ☆アンドレス・ムニョス 1996年1月16日、メキシコ・シナロア州出身。2015年7月にパドレスと契約。19年7月にメジャーデビュー。20年8月にマリナーズにトレード移籍。今季は64試合に登板してリーグ2位の38セーブ、防御率1・73。シアトルにある猫の保護団体「フェリン・レスキュー」と協力し、ポストシーズンでセーブを挙げるごとに200ドルの基金を積み上げるチャリティー活動にも取り組む。188センチ、101キロ。