複雑な思いはグラウンドで――。新庄剛志監督(53)率いる日本ハムが16日のソフトバンク戦(みずほペイペイ)で、2年前まで在籍していた上沢直之投手(31)と移籍後初対決。オープン戦とは思えない怒とうの攻撃を浴びせ、完膚なきまでに叩きのめした。

 右腕は5回までマウンドに立ったが、序盤の3回までに9安打で5得点を挙げ、4盗塁と足でもかき回す積極采配。攻撃の手を一切緩めず攻略した背景には、あの一件が見え隠れする。

 2023年オフ、当時日本ハムのエース格だった上沢はポスティングシステムを利用し、マイナー契約でレイズに移籍。指揮官は「アメリカ野球を楽しんでこい」とエールを送り、上沢の渡米後も人一倍気にかけてきた。

 ところが、右腕は1年で米挑戦を断念し、昨オフに最大のライバル球団であるソフトバンクに移籍。新庄監督は「育て方を間違えたのかな」などと赤裸々に思いをぶちまけ、球界全体に波紋を広げた。

 見えない緊張関係は続き、15日の試合前に上沢と再会したナインが旧交を温めたが、新庄監督だけは姿を現さず。こうした動きからも胸の内に秘めた思いが見て取れた。

 ただ、新庄監督も「大人」。表向きには上沢に厳しい姿勢を貫くが、いつまでも怨念を抱くような人間ではない。その証拠に、この日の試合後には、囲み取材が行われる場に不敵な笑みを浮かべながら現れると、本紙記者に何重にも折りたたんだメモ用紙を手渡し「あとで見ておいて」と言い残して球場を後にした。そして、すぐにメモを広げてみると…。

「お話しすることは何もございません」。黒のサインペンで、このひと言だけが記されていた。集まった大勢の報道陣から、上沢に関する質問が飛ぶことは容易に想像できた状況。そんな中で見せたまさかの〝筆談対応〟だった。

 胸中は今でも複雑ながら、その思いはグラウンドで晴らす。今回の上沢との「直接対決」には、指揮官のそんな思いがにじみ出ていた。