【達川光男 人生珍プレー好プレー(17)】我が県立広島商高、通称「広商」の野球部を率いていた迫田穆成(よしあき)監督の教えや野球観について詳細を書いていたら、おそらく何冊かの本になるぐらいの分量になってしまいます。ここではその一端を紹介させていただきます。

 これまでにも何度か江川対策の「スクイズ失敗作戦」については触れましたが、ほかにも独自の練習はいくつもありました。たとえば練習試合で投手がイニングの先頭打者にフルカウントから四球を与えるというのも、その一つ。打たれても見逃し三振でもダメで、大事なのは四球で無死一塁という状況をつくることでした。公式戦で意図せず同じようなシーンになっても、慌てずに対応するための訓練です。

 バント練習もしかり。カウント0ボール2ストライクという設定で、打者には一発で決めることが求められました。守る側も簡単にバントをさせまいと投手はウエストしたり、野手もチャージをかけてくる。どちらも失敗すればカミナリを落とされるので、練習といっても気が抜けません。

 投手は無死満塁のカウント3―0から、どう無失点に切り抜けるか。打者は二死走者なしから、どう塁に出て逆転につなげるか。そうした難局をイメージし、自分に何ができるか、何をすべきかを考える野球脳も鍛えられました。

 迫田監督から教わったのは「一の野球」です。始まりは「一」で「一」があって「二」がある。全ては一つひとつの積み重ねで、何事においても「一」を大切にするという考えは、68歳となった今でも心の中に根づいています。

 広商といえば、第7話で紹介した「広商野球部員心得」にも真っ先に記されている「広商野球部は精神野球に徹すべし」がモットー。刃を上にして並べた2本の日本刀の上に素足で立つ「真剣の刃渡り」に、上半身裸になっての裸足でのランニング、石を腹の上に置いてハンマーで叩く訓練もありました。

 迫田監督は合気道にも造詣が深く、親交のあった師範の住田芳寿さんからは腹式呼吸による精神統一を教わりました。そばを食べる感じで口から息を吸い、鼻で吐く。試合前に3分ほどすると気持ちが研ぎ澄まされ、集中して試合に臨めたものです。

 この腹式呼吸は甲子園大会になると、宿舎でもやりました。1時間で消えるロウソクに火をともし、炎を見つめながら腹式呼吸を繰り返して精神統一。その後に投手はタオルを持ってシャドーピッチング、野手は素振りをしてから就寝するのです。ロウソクは身を減らして人を照らす――。この儀式には「人のために自分をささげる」という意味も込められていました。