【森脇浩司 出逢いに感謝(58)】ソフトバンクのチーフ兼守備走塁コーチだった僕は王貞治監督の胃がん手術に伴う休養で急きょ、2006年7月6日から代行監督を務めることになりました。王さんから前日に「がんが見つかった。明日から頼む」と立ち話で言われ、ぎりぎりまで言わなかった王さんの悔しさが伝わってきた。大好きな野球を離れることがたまらなくつらかったと思います。でも十分な説明、どうしていくかのプランもなかった。
大きな出来事だったけど、あまり動揺はなく、取り乱すことはなかった。チームに欠かせない存在なので一日でも早く帰ってきてほしいというのはあったけど、それは理想論だし、シーズン中は無理だろうと腹をくくっていました。大事なのは今日の試合の結果。もうすぐ試合が始まるし、またベースコーチとして試合に立たなきゃいけない、という気持ちで代行初戦の楽天戦(8日)は勝利できました。
ホークスは井口資仁、城島健司が抜け、攻撃的野球からスモールベースボールにシフトする転換期でもありました。三塁で起用したルーキーの松田宣浩もいい経験をしたと思うし、投手陣からしたら「打たれても点を取ってくれるだろう」という打線から「抑えないと勝てない」チームになった。捉え方によっては投手陣がさらに強固になる足がかりとなったと思います。
王さんに試合の報告を毎日のようにしたかったけど、あまり気を使わせることもしたくなかった。体調のいい時、都合のいい時に連絡をもらえればいい。あとは頑張るから任せといてください、と思っていた。パソコンで試合の報告をし、連絡があったら折り返したりしていました。
手術が無事に終わったある日、昼間にマネジャーから「王さんから伝言がきています」と連絡がきた。ファクスで楽天のホセ・フェルナンデスのインパクトの瞬間のバッティングの写真だったんです。王さんは長時間の手術を終えると、出てくるなり周りの人に「スポーツ紙を全部買ってきてくれ」と頼み、フェルナンデスの豪快な打撃の写真を見つけて「これを森脇に送っといてくれ。試合前にみんなに見せてくれ」と…。
最近は打撃が小さくなっている。これじゃ相手になめられる。この写真を見てもう一度、イメージをしっかり持ってくれ。ずっと王さんはそれを気にかけ、手術している最中も気になっていたんでしょう。人間って自分がうまくいっている時は余裕があって人のことも気にすることもできるし、いい人でいられる。でも自分が追い込まれた時にどういう言動をとれるかで真価が問われると思う。
王さんはそんな状況の中でもチームのこと、選手のことを気にかけ、それ中心の行動をとれる。そこにその人の価値があり、それが責任を果たすということなんだな、と思いました。苦しい時でも目線はそこにある。そう感じた1枚のファクスでしたね。












