【鈴木平 超二流~花の咲きどき~(17)】1992年のオフのころだったと思います。巨人の監督に長嶋茂雄さんが復帰されることが決まりました。

 そうすると、これまで実家住まいだった一茂さんが一人暮らしをすることになりました。

 巨人の監督とヤクルトの選手が一つ屋根の下というわけにはいかないという論理です。

 そうなると物件探しが始まります。一茂さんは僕のところに、いろんな物件情報を持ってきました。

「なあ平、どれがいいかなあ」などと言いながら、物件の図面を見せてきます。

 もちろん、ワンルームマンションの賃貸物件とかではありません。当時で8000万円とかしてしまう都内の豪華なマンションなわけですよ。

 本当に軽い感じで「どれがいい」とか言ってくるので、僕が「そりゃ当然これでしょ。これにすれば」と返すと、本当に買っちゃうんですよ。

 そうすると今度は「泊まりに来いよ」と誘ってくれるんです。僕と松岡大吾の2人で一茂さんの初めての一人暮らしをのぞきに行きました。

 たぶん、石神井公園あたりでしたかねえ。マンションの横には細い道路がありました。一茂さんが「そこの側道はマンションの私道だから駐禁、切られないから大丈夫」と言われて素直にクルマを止めました。

 そしたら翌朝、きっちり駐車禁止の切符を切られたのを覚えています。

 一茂さんの自宅に入ると最初に目に飛び込んできたのは、150センチくらいある人形でした。
「ああ、それはねえ、マサイくんっていうんだよ。親父がマサイ族から実際にもらってきたんだよ」

 もう何が何だか…の状態です。

 あと、一茂さんの部屋で印象的だったのは家族写真ですね。まだ20代後半の独身男性って、普通は家族写真とかって部屋に飾りませんよね。これは人によるかもしれませんが。

 その写真を見ていると、一茂さんはやっぱりミスターのことを尊敬しているんだなということが伝わってきましたね。

「平、大吾、好きなのあったら何でも持って帰れよ」と言われて、クローゼットから洋服もたくさんいただきました。おそらく、ヴェルサーチ、アルマーニとかブランドものの高い服ばかりだったと思いますよ。

 だからといって「お前ら、いつもおごってやってるだろ」などという言葉を一茂さんから聞いたことがありません。「いいから来いよ。一緒に行こうよ」というノリで偉そうな態度を一度も見たことはありませんでしたね。

 おカネの使い方に関してはとにかく「カネ払いがいい」という言葉があると思いますが、スマートでした。おそらく、ご両親からこういうおカネの使い方をするんだよということを、自然に学んできたんだろうなと思います。

 おすし屋さんに行くと「大将トロ、大将トロ」って、マグロのトロばかり食べるんですよね。で、テレビで見ていると分かると思うんですけど「これはね、こうやって食べるんだよ」とかいうウンチクがうるさいんですよ。

 僕たちは年下だったんですけど「いやいや、好きに食べればいいじゃん」というようにツッコミを入れると「ダメだ。こう食べないとダメなの」と返してきたり、楽しい時間を過ごしました。

 今、一茂さんがテレビでロケなんかに行ってる姿を見ていると、当時のままだなって思いますね。本当にあのまんまでしたから。ただ、こんなに楽しい時間がいつまでも続くわけではありませんでした。