〝プロレスリングマスター〟こと武藤敬司(60)の引退試合が行われる、ノア21日の東京ドーム大会が目前に迫った。メインイベントで行われる武藤と内藤哲也(40=新日本プロレス)の一戦のみならず、多くの注目カードが組まれた。中でもファンの期待を集めるのが、新日本のIWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカ(35)と、GHCヘビー級王者・清宮海斗(26)の王者対決だ。大一番に臨む愛弟子には、引退する武藤から「戦友」の〝あの言葉〟が送られた――。

 王者対決の機運が高まったのは、1月の新日本横浜大会だった。タッグ戦で清宮がオカダに背後からの顔面蹴りを浴びせ、大乱闘に発展。遺恨清算のシングル戦決定後はボイコットも示唆されたが、12日のノア大阪大会に乱入してきたオカダにレインメーカーでKOされ、「東京ドーム、やってやるよコノヤロー!」と宣戦布告された。

 武藤は、経緯はどうあれ、最初に清宮が動いて試合が組まれたことを「ある意味で俺の引退試合を思ってくれたのか、いい意味で盛り上げてくれてるよな」と高く評価する。自身の引退試合に次ぐ注目カードを実現させた〝愛弟子〟に「あの(顔面)蹴りは、アイツから俺への〝せん別〟っていうふうに、勝手にとらえているよ」と感謝の言葉まで口にした。

 2020年のノア継続参戦から清宮とは何度もリング上で戦い、その遺伝子を注入してきた。そして昨年7月の引退ロード第1弾では、シングル戦で初めて敗北。試合後には閃光魔術弾、足4の字固め、ドラゴンスクリューを「譲る」と認め、指導も行った。そんな弟子の行動について、こう語気を強める。

「そもそも、オカダに絡むっていうのが、センスのいいことなんだよ。それが一番話題になるって分かることが大事だから。もしかしたらこれも猪木イズムなのかも分からねえけどさ。伝えたかったことが伝わっている実感? もしかしたらね。行動力は評価しますよ」

 だが、IWGP対GHCの王者決戦は、清宮不利の下馬評が圧倒的だ。獣神サンダー・ライガーからも「まだシングルで戦うのは早いと思う」「僕はカズチカが盤石だと思う」と切り捨てられた。それでも武藤は「いいじゃん、別に。変な話、少なからずとも新日本のファンに清宮という固有名詞がインプットされただけでも大したことだから」と笑い飛ばす。

 その上で「そもそもノアって、俺が入団するちょっと前から、今の形が生まれたワケであってさ」と、20年1月にサイバーエージェントの傘下に入り、新体制がスタートしたことを指摘。現在も新日本による「1強時代」が続いているとして「ノアは後発的なもので、ファンの数が違うわけだ。だからこんなもの、当たって砕けたほうが得なんだよ。マサさんじゃないけど『Go for broke』だよ。しかも清宮は若いから、当たって砕けたって、またいつか当たることができるんだ」。

 パーキンソン病を患い、18年に亡くなった戦友の〝獄門鬼〟マサ斎藤さんの座右の銘を引き合いに力説。清宮のみならず、ノア自体が新日本に「当たって砕けろ」の覚悟で立ち向かえ…というわけだ。

 一方で視線を落とすと「俺なんて、当たって砕けたらもう終わりだよ。いや、もう当たらないでも砕けそうだ。まいっちまうよ…」。肉離れを起こしている両太ももをなでながら大げさにぼやいたが、最後には自らにも言い聞かせるように「どっちが派手に砕けられるか、勝負だ‼」。この言葉が清宮にどう響くか。いよいよ決戦だ。