球界イチのムードメーカーがユニホームを脱ぐ。日本ハム・杉谷拳士内野手(31)が28日に札幌市内の球団事務所で会見を開き、今季限りでの現役引退を発表した。はつらつとしたプレーだけでなく、ユニークなキャラクターで多くのファンを魅了。北海道のファイターズ党のみならず他球団のファンも笑顔にしてきたが、その好影響は巨人へと移籍した〝偉大な先輩〟にまで及んでいた。

 笑いあり、涙ありの会見だった。この日を迎えるにあたり、杉谷は照れ臭そうに「いろいろとシミュレーションしてきたつもりではあったんですけど」と〝予行演習〟を行ってきたことを打ち明けながらも「今、座った時にいろいろな思いが込み上げてきてどう伝えていいのか、感謝の気持ちでいっぱいです」と神妙な表情。引退の理由については「シーズンが終わってからたくさんの方に相談して、自分の将来のことだったりファイターズの将来のこと、体のこと、総合的な判断をした上でこのような形になりました」と説明した。

「記録」よりも「記憶」に残る名選手だったことは間違いない。ここまでのプロ14年間を「正直満足できる数字ではなかった」と自虐気味に回顧。通算777試合、16本塁打、104打点、打率2割1分2厘、50盗塁と確かに派手さがあったわけではないが、この日の会見後にはSNS上で引退を惜しむファンの声であふれ、ツイッターでは一時トレンド入りも果たした。

 そんな多くの人を笑顔にしてきた杉谷だが、持ち前の人望の厚さによって昨夏に日本ハムから巨人へと電撃移籍した「兄貴分」の中田翔内野手(33)に〝好影響〟を与えていたことも忘れてはいけない。巨人入り当初の中田は無償トレードで電撃移籍を果たした経緯もあり、チームの若手選手たちとうまく馴染めず本来の個性を出せずに苦しんでいた。悶々とした空気が漂っていた中、当時の中田に「喝」を入れたのが、実は日本ハム時代の後輩・杉谷だった。

 今年2月、沖縄・那覇で行われた春季キャンプ中の練習試合で、両者が久々に顔を合わせた時のことだ。杉谷はパンプアップした先輩・中田の肉体を見るやいなや開口一番に「バケモンやん!」と〝口撃〟。これに中田は無表情のまま詰め寄るフリを見せると、杉谷は慌てながら「待って待って!」と制止する十八番の「茶番劇」を披露し、Gナインを和ませた。

 今年5月27日からの交流戦3連戦で中田が札幌ドームに凱旋した際には、試合前から「守備固めいけますよ! ハンドリング柔らかいから!」と声をかけ、それまでベンチスタートが続いていた先輩を、愛情たっぷりにあえてイジりまくった。

 加えて翌28日の試合で自身が代打で立った打席では、中田が普段使用している登場曲・ビーグルクルーの「My HERO」を流す〝神演出〟も見せた。こうした後輩の粋な計らいによって触発された中田は、この試合でスタメンに名を連ねると、5号2ランを含む2打数2安打3打点でチームを勝利に導き、古巣相手に「恩返し」の大暴れ。杉谷は巨人移籍から低迷中だった先輩の〝北の大砲〟を一気に目覚めさせるきっかけを作っていたのだ。

 その後の中田の躍進ぶりは周知の事実だ。「巨人軍第91代4番」に定着して後半戦のチームを支え、終わってみれば24本塁打、68打点を叩き出すなど完全復活。新天地での再ブレークに尽力してくれたかわいい後輩の分まで、中田は胸の内で来季もさらなる打棒爆発を誓っているはずだ。