〝読書家ランナー〟の胸の内は――。陸上女子中長距離で活躍する田中希実(23=豊田自動織機)が本紙の単独インタビューに応じた。3種目で日本記録を持ち、昨年の東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞。そのトラック界のエースが、趣味の読書を通じて深めた〝ミッフィー愛〟や、さらなる進化を目指すケニア修行の狙い、2024年パリ五輪での目標などを包み隠さず語った。

 ――田中選手と言えば読書家の印象が強い

 田中 あまり意識はしていなくて、みんなが暇なときに普通にユーチューブやテレビを見たり、ゲームをしたりする感覚に近いかなと思います。

 ――直近で読んだ本の中で印象的なものは

 田中 最近ミッフィーにハマっていて、作者の(ディック)ブルーナさんに関する本を読んだのですが、結構陸上につながる部分もあったので、面白かったし、勉強にもなりました。

 ――どこが陸上につながるのか

 田中 例えばミッフィーの絵ってシンプルでまねできそうに見えますが、ブルーナさんは1体を描くのに100回以上スケッチをしないと納得のいくミッフィーができないみたいで、しかも毎日続けていたと書いてあった。そこはちょっと自分と似ている部分かなと思いました。

 ――学びがあった

 田中 私はなかなか納得のいく走りができないとイライラしてしまうのですが、本を読んでいてブルーナさんは純粋に試行錯誤すること自体も楽しんでいるように感じたので、そこを見習いたいと思いました。でも好きなことを続けることはきついとも書いてあったので、そこも一緒だなと。

 ――ちなみに、なぜミッフィーにハマったのか

 田中(試合で)北海道に行った際に宿泊した旭川の美術館でミッフィーの展覧会をやっていて。せっかくだし、見に行ってみようというところから、ちょっとずつハマっていきました。今では日頃使いのアイテムの中にミッフィーがあったらうれしいなと思えるくらい好きになりました。

 ――7月の世界選手権では3種目(800メートル、1500メートル、5000メートル)に出場した一方で、入賞はならなかった

 田中 今はまだどの種目でも世界レベルでいつでも戦えると胸を張ることができない。1種目でも「これは私の種目です」と世界レベルで言える種目さえできれば、他の種目にももっとチャレンジ精神を持って取り組んでいけると思います。今回は全部の種目で力がそこまで及んでいない中で戦い、もがいたことが今後にすごく生きるかなと。あの時あんなに苦しんだから、今度は楽しみながらいけると思うので、何かしらこの種目ならというのを作りたいです。

 ――ケニアで約2週間練習に励む

 田中 これも本がきっかけです。中学か高校の初めぐらいに「なぜケニア人が速いのか」というテーマの本を読んで、その中でケニア人たちの走りに取り組む生活環境が魅力的に感じた。自分も一回そういう感じで陸上に取り組んでみたいなと思ったのと、本の作者はケニアと他の民族の身体的な差はなくて、単にハングリー精神の差だと。逆に、そのハングリー精神はどこから出てくるのか実際に肌で感じたいなと思ったのもあります。

 ――ケニア人のスイッチの切り替え方が魅力的に映った

 田中 早朝に走った後は午後の練習までティータイムみたいな感じで楽しんだり、お昼寝をしたりとかゆったりしているというのを読んで。陸上に集中している部分と、ゆったりしている部分があるからこそ、より練習に身を入れてできるのではと思いました。自分にはそっちの方が合っているんじゃないかなと。

 ――パリ五輪まであと2年。目標は

 田中 1500メートルで勝負したいというイメージがあるので、それ以外の何かの種目と兼ねるかどうかはその時の力次第ですが、東京五輪で入賞できている分、1500メートルでより上を目指せるような力はつけたいです。絶対にメダルを取りたいというか、メダル争いができるような力が欲しいなと今は思っています。

☆たなか・のぞみ 1999年9月4日生まれ。兵庫県出身。中学から本格的に陸上を始め、2年時には全国都道府県対抗女子駅伝の8区で区間賞。駅伝の強豪・西脇工高でも全国大会で数々の好成績をマークした。同志社大では父・健智さんがコーチを務めるクラブチームで練習を重ね、東京五輪の1500メートルで日本人初の8位入賞を果たした。現在は1000メートル、1500メートル、3000メートルの3種目で日本記録を保持する。153センチ。