札幌五輪どころではない! 東京地検特捜部は6日、東京五輪・パラリンピック組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)がスポンサー企業の出版大手KADOKAWAから賄賂を受領したとして再逮捕。余罪が明らかになる一方で、2030年札幌冬季五輪の招致活動は何事もなかったかのように進行中だ。そんな中、ラグビー元日本代表の平尾剛氏(47=神戸親和女子大教授)が取材に応じ、五輪の〝闇〟に目をつぶるスポーツ界のトップや声を発しないアスリートたちの姿勢に疑問を投げかけた。


 ――高橋容疑者が受託収賄容疑で再逮捕された

 平尾氏(以下平尾)巨額のお金が背後で動いているというのは多くの人がうすうすわかっていたように思うが、ようやく地検(東京地検特捜部)が動いたなというのが第一印象ですね。これを機に真相を明らかにしていくべきで、すべてのウミを出し切らなきゃいけない。

 ――高橋容疑者は従来の五輪ルールを崩してまでお金をかき集めた

 平尾 以前の五輪はスポンサーが「1業種1社」だったのですが、それを撤廃してたくさんの企業からスポンサーを募る仕組みの採用を、国際オリンピック委員会(IOC)に働きかけたのが高橋容疑者だった。もともと「1業種1社」というルールは、商業主義の過熱に歯止めをかける制度だったはずなのに、東京五輪では撤廃され、多くの企業、団体からお金が集まる大会になってしまった。

 ――東京五輪の闇が公になっても、2030年札幌冬季五輪の招致活動が進んでいる

 平尾 札幌に五輪を招致している場合ではないだろうというのが僕の考えだし、同じように考えている人は多いと思う。利権に群がる人たちがもう一度五輪をやりたいと動いているのだろうが、国民に災害規模の負担がかかる五輪はするべきじゃない。今回も組織委員会の元理事が逮捕され、汚職事件に至っているにもかかわらず、依然として札幌への招致をやめないのはどう考えても筋が通らない。いい加減にしてほしい。

 ――スポーツ界のトップたちは、人ごとのような姿勢だ

 平尾 スポーツ庁の室伏広治長官が「ニュースを見るたびに悲しく、つらい思いをしている」などとコメントしていたが、これはいささか無責任な態度だと思う。まるで傍観者のような発言内容は不誠実で、スポーツ庁長官としての当事者意識が欠如していると思わざるを得ない。いい加減にしないと本当にスポーツが消費され尽くされてしまう。

 ――日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長も同じか

 平尾 一緒です。五輪に直接関わるJOC会長という立場からすれば、こちらの方が重い。権力に抱き込まれてしまったのでしょう。現役の時にすばらしい試合をして、多くの国民の注目を集めた山下会長の今を形作ったのは五輪ですよね。なのにこんな不健全な大会の片棒を担いでいて、それでいいのでしょうか。この矛盾とどう向き合っているのか、それが知りたい。本当にがっかりです。

 ――室伏長官も山下会長も、もっと当事者意識を持つべきか

 平尾 むろん、そうです。高橋容疑者の逮捕をきっかけに事の真相を明らかにする必要があり、その捜査に協力は惜しまないという態度を示すべきです。その上で、せめてクリーンな形で札幌五輪をやりますという決意を国民に示す義務がある。それが当事者たる者の責任です。大きな闇には触れないようにしながら、こそっと札幌五輪の招致は続けますというのは、あまりにも腰が引けており、筋が通っていない。

 ――声を出さないアスリートにも問題がある

 平尾 なんか人ごとという感じ。自分の役割を試合で結果を残すことだけに限定し、大会のあり方に物申すことはふさわしくないと決め込んでいる。自分たちが主役の大会だから運営サイドの不祥事には怒ってもいいはずなのに、それがない。つまり当事者意識が欠落している。もし、どうすればいいのかわからなかったのであれば、それこそが社会性の欠如であり、不見識です。これからのアスリートは社会性の獲得と見識を高めることが必要になってくると思う。

 ☆ひらお・つよし 1975年5月3日生まれ。大阪府出身。中学時代にラグビーを始め、同志社香里高、同志社大を経て、神戸製鋼に加入。99年ラグビーW杯では日本代表に選出された。しかし、2005年ごろから脳震とうの後遺症に悩まされ、2年後に現役を退いた。自身のケガを機に、06年から神戸親和女子大学大学院の文学研究科修士課程教育学専攻で研究をスタート。現在は同大の発達教育学部で教授を務めている。専門はスポーツ教育学、運動学、身体論。182センチ。