無名の剛腕が〝火の玉構文〟を完膚なきまでに破壊した。阪神は5日の中日戦(甲子園)に4―7で敗北。投手陣が崩れ、藤川球児監督(44)の聖地初陣を飾れなかったが、最大にして最良のサプライズはラストイニングに待っていた。

 9回のマウンドに7番手として登板したのは、育成1位右腕の工藤泰成投手(23=四国IL徳島)。先頭打者・辻本のバットを初球の155キロでへし折り遊ゴロに打ち取ると、後続も抑えて1回を1安打2奪三振無失点。常時150キロ台中盤を維持していた直球の最速は157キロを記録し、フォークやスライダーなどの変化球の精度も冴えた。

 走者を許しても堂々とストライクゾーン内で勝負できるマウンド度胸を披露し、試合後の藤川監督もこの日ばかりは賛辞を惜しまなかった。「素晴らしいボールを投げている。いつ見ても同じボール、精度で投げるように心掛けている。チームの仲間たちもビックリしているのではないかなと思います」とベタ褒め。「『今だけ』ではなくこの先も一緒に戦いたいと思わせてくれる投球だった。終わったばかりですし、またしっかり考えたい」と早期の支配下抜てきを示唆したほどだ。

試合後、敗戦にも上機嫌だった藤川監督(右)
試合後、敗戦にも上機嫌だった藤川監督(右)

 昨秋の指揮官就任以降、チーム戦略に関わる質問をのらりくらりとかわし続けてきた藤川監督としては、珍しく一歩踏み込んだ発言だ。春季キャンプ中も、新加入選手の寸評や今後の構想を問われても「さあ、どうでしょう」「皆さんがそう思われたらそうなんじゃないですか」「ご想像にお任せします」「健康でケガなくプレーできればそれが一番です」といった返答が定型化。情報のコントロールを強く意識した姿勢を周囲に印象づけていたが、この日は育成ドラフト枠で獲得に成功した金の卵の将来性に、静かな興奮を隠せない様子だった。

 断続的に冷たい雨が降り続けた中、強行された3時間48分のロングゲーム。最後まで見届けた虎党たちもまた、決して小さくはない〝お土産〟を手に帰途に就くことができた。