【フロリダ州オーランド4日(日本時間5日)発】世界最大のプロレス団体WWEの祭典「レッスルマニア36」は史上初めて無観客で開催され、メインの“怪人”ジ・アンダーテイカー対AJスタイルズ(42)の「ボーンヤードマッチ(墓場埋葬マッチ)」は壮絶極まる内容の末、アンダーテイカーがAJを墓場に葬った。

 全世界に配信された画面に異様な光景が映し出された。漆黒の闇に浮かぶ、どこかの地方都市の墓場の門を、霊きゅう車がゆっくりとくぐり抜ける。敷地内に車が止まると後部席が開き、白い棺おけがすべり落ちてきた。棺おけの中から現れたのはAJ。「驚いたか? これはアンダーテイカーへのプレゼントだ」と不敵に笑った。

 10秒後、爆音を立ててテイカーが愛車の大型改造バイクに乗って登場。いつものコスチュームではなく素顔にバンダナの「アメリカン・バッドアス」スタイルだ。深い闇を照らすのはバイクの照明のみ。テイカーはAJの元へゆっくりと歩を進める。あまりの妖気と殺気にAJは後ずさりするしかなかった。

 怪人は一気に間を詰めると、いきなり右フック連打でグロッギーにさせ、霊きゅう車のドア、フロントに叩きつけ、窓ガラスまで割ってしまう。さらに車の屋根でマウントを奪うや鉄ついの嵐を叩き込み「どうしたアレン?(AJの本名)」とすごみを利かせて地面へ突き落とした。

 ここでようやくAJが反撃。パンチから怪人の古傷であるヒザを痛めつけると、敷地内に設置された墓穴まで連れて行く。しかしここで怪人はカッと目を見開くや、再びパンチの嵐。AJを再度グロッギーにすると、地下3メートルの墓穴に突き落としてしまった。

 AJは目を閉じて完全に失神。テイカーはブルドーザーに乗って埋葬の仕上げに入ろうとするが、ここで案の定「The OC」のメンバー(ドク・ギャローズ、カール・アンダーソン)が登場。「まだ勝負は終わっちゃいねえよ」と吐き捨てると、敷地内の小屋から、あまりに唐突に黒い死に装束をまとった6人の大男が飛び出してきた。

 怪人はうんざりした表情で首を横に振りつつも、6人の男たちをアッサリ蹴散らしてしまう。さらには鉄の棒で殴りかかってきたギャローズを蹴散らし、棒を奪ってアンダーソンまで殴り倒した。

 ここで蘇生したAJが背後から鉄の板でテイカーを襲撃。後頭部を乱打すると馬乗りになってパンチを連打。2人はもつれこんだまま謎の男たちが出てきた小屋に突っ込み、壁を全壊させてしまった。テイカーのダメージは深刻で、うめき声を上げたままうずくまって座り込んでしまう。

 もう余裕がないAJは、スコップで頭に強烈な一撃を食らわせると、逆にテイカーを墓穴へ突き落とす。完全に怪人が失神したことを確認するや、土をかぶせて埋葬するためブルドーザーの運転席へ。勝利を確信したAJは高笑いを決め込んだ。

 しかし暗闇で笑うAJの背後には無言で立つテイカーの姿が…。気配に気づいたAJは振り返ると悲鳴を上げて逃げ降りた。

 しかし墓地に逃げ場などない。AJは小屋の屋根まで逃げるも怪人は徹底的に追い詰める。テイカーが両腕を天に突き上げると、何と屋根からは巨大な火柱が立ち上がる。助太刀に入ってきたギャローズを屋根の下に放り捨てると、アンダーソンにはツームストーン・パイルドライバー。さらにはおびえるAJをチョークスラムで屋根から5メートル下まで放り捨ててしまった。

 地上に落ちてグッタリしたAJはもはや泣き顔だ。怪人は「アレン、大丈夫か? 自分の名前を、俺の名前を覚えているか? なあボーイ、もう少し続けようぜ」と語りかけると、そのまま抱え上げて墓穴へ戻る。

 もはや戦士の面影はなく、子供のように泣きながら「アイムソーリー…」と繰り返すAJ。テイカーは「世界中の人が俺たちの戦いを見てくれた。お前はよく頑張ったよ」と肩を抱き締め、健闘をたたえて一度は背を向けて去ろうとした。しかし、すぐさまきびすを返すと、ハイキック一撃。そのままAJを墓穴に落とすと「安らかに眠れ…」とつぶやき、ブルドーザーで土を盛って完全に埋葬した。

 その横には怪人が周到に用意した「AJ Styles REST IN PEACE 1977―2020」の文字が刻まれた白い墓が…。土の中からはAJの黒い皮グローブだけが飛び出しており、完全に「死」を印象づけた。

 怪人は任務を終えた仕事人のように大型バイクに乗って墓地を後にした。帰り際、右腕を天に突き上げるや、戦場となった小屋には怪人のロゴが落雷のように浮かび上がり、小屋は炎に包まれた。史上初の無観客試合初日メインは、テイカーの圧倒的強さだけが際立つ結末となった。