女子プロレス「スターダム」のワールド王者・林下詩美(23)が、日本女子プロレス界の頂点に立つ。因縁の葉月(24)を迎え撃つV8戦(11月3日、神奈川・川崎市とどろきアリーナ)に向け、東京・江東区の富岡八幡宮で必勝祈願。王者として多忙を極める中、あえて決戦前にこの地を訪れた理由とは――。

 決戦を控えた詩美が訪れたのは富岡八幡宮だった。静かに境内を歩きながら、これまでの過酷な防衛ロードに思いを巡らせる。昨年11月15日にワールド王座を初戴冠してから7度の防衛に成功。葉月戦に勝利すれば、事実上1年間王座を守り続けたことになる。

 だが、ここがゴールでない。詩美は「大事なのはここから。次の1年で日本全国を〝制圧〟してトップになるには、もっと頑張らないといけないんです」と口にし、境内の一角に視線を向けた。

 その先にあったのは伊能忠敬像だ。言わずと知れた歴史的偉人で、人工衛星も飛行機もない江戸時代に自らの足で全国を回り、初めて実測による正確な日本地図を完成させた。

 伊能が測量の旅に出る前に参拝したのが富岡八幡宮とされる。詩美は「日本全国を地道にコツコツ歩いて大きなことを成し遂げたんですよ。私もコツコツと積み上げて、防衛も重ねて、女子プロレス界のトップになります。そして伊能忠敬さんの測量のように正確無比なラリアートで葉月の首をへし折って見せます!」と語気を強めた。この瞬間、伊能像がほほ笑んだように見えたのは気のせいだろうか。

 V8戦の相手にも特別な思いがある。新弟子だった2018年、指導を受けたのが葉月だったからだ。「プロレスの基礎を教えてもらって、当時はとても尊敬する先輩でした。普段は優しいけど練習では厳しくしていただいて、筋トレとかでも追い込んでくれた。あの厳しさが、今の私の基礎になっているのは間違いありません」。

 だからこそ、11月3日は成長した姿を見せつける。「あの時厳しくしてもらった恩返しをするには、あの時と同じ…いや、あれ以上に厳しく私が葉月を追い込むのが一番でしょう。今、私がチャンピオンなんで。あのころとは違う、今のスターダムのトップがどんなものなのか、葉月に教えてあげないといけない」と強い決意を口にした。

 その後は本殿で手を合わせ、体中から闘志が湧くのを感じた。「この間、父(ビッグダディこと林下清志さん)に『マイクパフォーマンスをもっとちゃんとやれ。人のを見て研究しなさい』と言われました。そのへんも頑張ります」。メインの試合内容に試合後のマイク…全てで圧倒し、新たなスタートを切る。