【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】誰よりも厳しく愛情深い。そんな表現が似合う指導者が、かつて阪神にいた。独特の栃木なまりが特徴。星野仙一氏を名参謀として支えた島野育夫氏がその人だ。

 現在は両氏とも故人となったが、暗黒時代から阪神を脱却させた功労者。星野、島野の名タッグは1999年中日を、2003年阪神をリーグ優勝に導いたブレーンだ。

 島野氏は現役時代、中日、南海、阪神で活躍。最盛期は南海時代の73年で61盗塁をマークした。同年から75年まで3年連続でダイヤモンドグラブ賞を獲得した守備、走塁のスペシャリストだ。

 特にゲームの流れを読む、投手のクセを盗む能力は抜群。その特性は指導者として存分に発揮された。指揮官のそばで一歩先を見通し、最善の選択肢を用意する頼もしい右腕だった。

 技術指導にも定評があった。92年、東洋大から大型内野手として入団した、桧山進次郎を外野手に育て上げたのは島野コーチだ。

 現役時代、桧山は島野コーチの指導の思い出をこう語っている。

「外野ノックで打球を処理して、また守備位置に戻る。若手らしくはつらつと、全力疾走で定位置に戻った時、島野さんに怒られた。『なんで?』と思ったけど、理由を聞いたらなるほど、目からウロコやったね」

 島野氏の考えはこうだ。左右に振るノックのように、体力強化のメニューと試合を想定した守備練習は違う。一球、一球、守備位置に戻る時には風向きや、外野フェンスとの距離を確認する。さらに、相手打者と自軍投手の相性や、過去の打球傾向などを頭でまとめておくことが基本というものだ。

 口数の少なかった島野氏の言葉を借りるなら「準備が基本よ。ひー(桧山)にもよう言うたなぁ」ということだ。

 現在の阪神首脳陣で「島野イズム」を知る人は、星野氏のおいでもある筒井外野守備走塁兼分析担当コーチだ。筒井コーチは現役時代、中日でも阪神でも島野氏の指導を受けている。

 現状、矢野監督はドラ1の佐藤輝を外野で起用する考えを公言している。ここが機能するかは、来季の阪神の結果に大きく影響するだろう。

 島野コーチが桧山の外野転向を成功させたように、担当の筒井コーチが「島野イズム」を佐藤輝に継承してくれることを望みたい。

 くしくも島野氏が現役時代、阪神で背負った番号は佐藤輝と同じ「8」。これも不思議な縁を感じる。島野氏の命日は12月15日。今と同じ寒い時期だった。猛虎の発展に貢献した功労者の魂「島野イズム」よ永遠に。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。