第94回選抜高校野球大会(甲子園)が31日、大阪桐蔭(大阪)の4年ぶり4回目の優勝で幕を閉じた。準優勝した近江(滋賀)の絶対エース・山田陽翔投手(3年)が死球を受けた影響で左足に痛みを抱えながら投げ抜く姿が大きな話題を呼び、起用法を巡る賛否が熱を帯びた大会でもあった。

 成長を見守るNPBスカウトは山田を「プロ向きの選手」と評す。野球ファンなら一度は耳にしたことがある表現だろう。これは〝きれい事〟が通用しない厳しい世界で求められる素養を端的に表現したものと言える。

 痛みに強いのも才能。力をセーブして技術とセンスで相手を凌駕するのも才能。自分の「限界」を知り、ここぞの場面で無理が利くのも才能――。金の卵を追い続けるプロのスカウトたちはいろんな視点で熱視線を送っている。

 長いシーズンを戦う中でプロ野球選手は公にならないだけで大なり小なりの問題を抱えてプレーしている。痛いかゆいでおのおのが現場を離れればチームは回らない。同時に選手は個人事業主で1年1年が勝負。離脱の間に「代役」にポジションを奪われれば、働き場を失う。病院に行くことで強制的にストップがかかることを嫌う選手がいるのも事実だ。ここに「きれい事」が通用しない現実がある。そういう世界の門を叩ける「資格」があるかを「伸びしろ」とともにプロは見定めている。

 2014年、夏の甲子園。盛岡大付(岩手)のエース・松本裕樹は、故障を抱えながら雨でぬかるんだマウンドで、強豪・東海大相模(神奈川)を相手に3失点完投。最速150キロを誇った右腕が、立ち投げのような状態で120キロ台の真っすぐに多彩な変化球を駆使してチームを勝利に導いた。痛みに耐えながらも表情を一切変えず、あふれんばかりの野球センスで勝てる投球を披露した。その秋のドラフトでソフトバンクは松本を1位指名。「プロ向き」の素質を高く評価しての指名だった。

 プロでは2009年の日本シリーズで、日本ハム時代のダルビッシュ(現パドレス)が腰と臀部を痛めながら上体投げで巨人を封じた「一世一代の投球」が有名。ダルビッシュにしても、松本にしても選手生命を絶たれることなく、自分の限界値を把握する中で特筆すべきパフォーマンスを発揮してきた。

 大会を通して山田が見せたパフォーマンスは賛否両論の対象だった。そんな中で、現場の指導者の間からはこんな声が上がったのも事実だ。「才能も体力も強度も成長速度も人それぞれ。温かく見守っていただけるとありがたい」。選手を守ることと同時に、突き抜ける才能を伸ばす機会も失われてはいけない。

 球数制限にしてもエースの偏重起用にしても、選手を守る「精度」を上げつつ現場の自由度を狭めない中で議論が〝深化〟していくことが望まれている。