北朝鮮で深刻な粛清が起きているようだ。単なる高級幹部の汚職事件ではない。金正恩体制の根幹に関わる問題である。

 7月10日、平壌で金正恩朝鮮労働党総書記が出席する党・政・軍連合会議が開かれた。朝鮮中央通信によると、人民軍総政治局の前組織副局長パク・フィチョルとその追従者による「特大型不正腐敗行為」が明らかにされた。

 人民軍総政治局は、軍幹部の人事、昇進、忠誠心の審査などを担当する。日本の行政組織に例えれば、人事局と監察局を合わせたような強力な部署だ。さらに、軍内部に金氏の統制に従わない勢力が形成されないよう監視する役割を担っている。そのナンバー・ツーだったパク氏が、自らの腹心を軍の重要ポストに配置していたという。

 朝鮮中央通信は、パク氏が<軍隊内に売官売職、賄賂収受、政治詐欺行為を助長し、自分の腹心と追従者を重要職制に配置して党の唯一的軍指導体系を阻害した>(7月11日、「朝鮮中央通信」日本語版)と報じた。

 ここで鍵になるのが「党の唯一的軍指導体系を阻害した」という表現だ。これは単なる収賄や職権乱用ではない。

 金正恩氏を頂点とする公式の指揮命令系統とは別に、パク氏が独自の人的ネットワークと権力基盤を形成していたということだ。本来、派閥形成を監視する側が独自の勢力を形成していたとすれば、事態は極めて深刻である。

 金正恩氏は相当な衝撃を受けたと思う。この問題をパク氏個人の腐敗事件として処理することはないだろう。金正恩氏は不正腐敗や規律違反を徹底して取り締まり、「厳格な法的綱紀」の下で国家建設を進める意思を表明した。

 今後、党、政府、軍を対象とする大規模な組織点検が行われ、粛清が拡大する可能性がある。この事件は外交にも影響する。内部統制が最優先課題になれば、北朝鮮の外交活動は停滞する可能性が高い。

 他方、トランプ米大統領の関心はウクライナから東アジアへ移りつつある。北朝鮮の内政は米朝関係を通じ、アメリカの東アジア戦略や在日米軍基地の再編政策にも波及する。北朝鮮内部の政治事件は日本と無関係ではない。この連関を視野に入れて情勢を分析する必要がある。