現役時代は柏レイソルや清水エスパルスなどでFWとして活躍し、日本代表としてもプレーした北嶋秀朗氏(48)が、今季からアビスパ福岡のトップチームコーチに就任した。JFLのクリアソン新宿監督退任直後の苦しい時期を経て、塚原真也監督の熱烈なラブコールに応えて福岡入り。「人の力を信じる」を信条に掲げる元ストライカーが、サッカー人生と新たな挑戦への思いを語った。

 ――市立船橋高時代、目指していた選手像は

 北嶋コーチ 市船の時は、すでにプロになると決めていた。1年生で選手権を経験した時点で「絶対にプロになる」と誓った。ただ当時のプレースタイルでは通用しないと感じ、2年の夏ごろからドリブル型からポストプレーヤーへ大きく変えた。大好きだったヌワンコ・カヌ(元ナイジェリア代表FW)を見て「これでプロになる」と覚悟を決めました。

 ――3年時、選手権優勝、得点王の経験が与えた影響は

 北嶋コーチ プロ入り後の1、2年はむしろ苦しかった。期待は大きいのに全く通用しない。持ち上げられた立場から忘れられていく寂しさも味わった。今振り返れば大事な経験だが、当時は本当に苦しかった。

 ――苦しい時期を乗り越えた転機は

 北嶋コーチ 最初は完全に他責で「なぜ使わないんだ」とふてくされていた。でも実力不足も分かっている。その矛盾に苦しみ、思考を変えようとメンタルトレーニングを始めた。そこから成績が上向いていった。

選手を鼓舞する福岡・北嶋コーチ
選手を鼓舞する福岡・北嶋コーチ

 ――現役生活で最も大きな財産となっている経験は

 北嶋コーチ 最初の1、2年の苦しさです。17年間の現役生活のうち14年間は苦しい時間だった。でもその経験があったから向き合い方を学び、精神的に強くなれた。指導者になった今、その経験が生きている。

 ――フィリップ・トルシエ監督時代の日本代表として得たもの

 北嶋コーチ 当時の日本にはないサッカーだった。「サッカーとはこう考えるものなんだ」と論理的に教えてもらった。ゾーンディフェンスの連動性や組織の考え方は今でも指導に生きている。指導中に「あの時トルシエはこう言っていたな」と思い出すことも多い。

 ――指導者の道へ進んだ理由

 北嶋コーチ サッカーを追求できなくなることが怖かった。ボールを蹴る音や芝生のにおいが日常から消える恐怖があった。「それなら指導者しかない」と思った。

 ――指導者として最も大切にしていること

 北嶋コーチ 「人の力を信じること」。立場に関係なく人を大切にし、心を通わせることを一番大事にしています。

 ――塚原監督から声を掛けられた時の思い

 北嶋コーチ 人生で一番苦しい時期でした。「キタさんの人間性と経験が必要なんだ」と言われ、涙が出るほどうれしかった。本当に救われました。

 ――福岡行きを決断した最大の理由とは

 北嶋コーチ 「スタッフが一枚岩となり、固い絆で結ばれていたい」という言葉です。クリアソンで築いた絆が崩れて傷ついていた私には深く刺さった。

 ――S級コーチ養成講習会で同期だった塚原監督の印象は

 北嶋コーチ 同期の中でも塚原はズバ抜けていました。コンセプトが明確で説明も分かりやすい。そして何より声がいい(笑い)。堂々とした立ち振る舞いとあの声で、一瞬で選手を引き付ける力があると思った。

 ――ここまでのアビスパ福岡の印象は

 北嶋コーチ ものすごく謙虚で、いちずなチーム。J1のチームということで構えていたが、全く違った。全員が純粋にサッカーへ向き合っている。

 ――福岡で特に目に入ったFW選手

 北嶋コーチ (ウェリック)ポポですね。非常にフランクで謙虚な性格。「俺はこうやりたい」と、われを通すのではなく、こちらの提案にも素直に耳を傾けてくれる。監督からは「9番の得点力を引き上げてほしい」と求められているので特に注目している。碓井(聖生)も得点への嗅覚があり、ゴール前へ入る感覚がある。(サニブラウン)ハナンのスピードやバネもすごい。本当に楽しみな選手が多い。

 ――得点力向上へ向けて何が必要か

 北嶋コーチ ペナルティーエリアへの進入回数を増やすこと。そしてエリア内でのアイデアを増やすこと。得点のチャンスそのものを増やしていきたい。

 ――FW陣へ最も伝えたいこと

 北嶋コーチ 得点に対して興奮していてほしい。ゴールを奪いたくて仕方ないという野獣のような感覚が必要。味方のシュートですら触って自分のゴールにしてしまう。それくらいの強欲さを持っていてほしいですね。

 ――福岡サポーターへの思い

 北嶋コーチ 引退試合の時、ライバルチームの選手だった私に「キタジ、ありがとう」という横断幕を掲げてくれた。あの恩返しをする機会が巡ってきた。今度はコーチとして福岡に一つでも多くの勝利と笑顔を届けたい。

 ――オフの日の楽しみは

 北嶋コーチ 趣味はほとんどありません(笑い)。唯一聴くのはELLEGARDENだけ。特に「風の日」は理想の生き方が描かれていて、現役時代からずっと聴いています。

 ――今年、ワールドカップを戦った日本代表の姿をどう見たか

 北嶋コーチ ブラジル相手に「勝てるかもしれない」と思わせてくれた。本当に誇らしかった。日本サッカーの発展スピードを感じたし、先人が築いたものと現役選手の努力の結果だと思う。

 ――北嶋コーチにとってサッカーとは

 北嶋コーチ 人生そのものです。

 ☆きたじま・ひであき 1978年5月23日生まれ。千葉県出身。FW、コーチ。市立船橋高で3年連続全国選手権に出場し、1、3年時に優勝。3年時には得点王。97年に柏入り。清水、熊本でもプレーし、2013年限りで現役引退。J1通算230試合59得点、J2通算72試合14得点。日本代表3試合1得点。引退後は熊本、新潟、大宮でコーチを歴任し、23年にJFLクリアソン新宿ヘッドコーチ就任。24年から監督を務め、今季から福岡トップチームコーチに就任した。