「パンのターンがやって来た!」。流通ウォッチャーの渡辺広明氏はそう断言する。値上がりが続くおにぎりに対して、コンビニ各社は焼きたてパンと袋パンの2軸でわれわれの胃袋をつかもうとしている。進撃のコンビニパンは“パン屋再襲撃”できるのか。その戦略に迫った――。

 年間約60億個が売れるコンビニおにぎりが「最近、高くなったな…」と感じている人は多いだろう。中でも主力商品のツナマヨはその傾向が顕著で、一般社団法人おにぎり協会の調べでは2025年、大手4社のツナマヨ価格は前年比2~4割高に上昇したことが明らかになっている。

 1個200円近くになると気軽に食べられるものではなくなってしまうが、コンビニ各社もただ手をこまねいているわけではない。

「のりを巻かずにコストを抑えた商品や、ビッグサイズにして満足感を高めたり工夫を凝らしていますが、26年は“パンの年”になると思います。パンのターン(順番)がやって来たのです」と話すのは渡辺広明氏だ。

ファミマのシーチキンマヨネーズおにぎりは現在税込み198円。明太子や鮭は200円オーバーに
ファミマのシーチキンマヨネーズおにぎりは現在税込み198円。明太子や鮭は200円オーバーに

「“令和の米騒動”からもうすぐ2年。コメ価格は下落傾向にありますが、コメだけでなくのり、魚介具材などおにぎりは原材料が高騰するリスクを常に抱えています。一方、パンの原料である小麦は政府売り渡し価格が半年ごとに改訂され、4月に2・5%上がりましたが、おにぎりに比べれば販促設計を組みやすい商材なのです」

 セブン―イレブンは26年度中に焼きたてパンを提供する「セブンカフェベーカリー」の導入店舗を約1万8000店に拡大する計画を公表している。既に“市民権”を得たコンビニコーヒーとの相乗効果に加え、紅茶のマシンを使った「セブンカフェ ティー」も1万店に拡大する方針で、焼きたてパン、コーヒー、紅茶のトリプル効果で朝の胃袋を狙うという算段だ。

 コンビニ店内でパンを焼く、いわゆるインストアベーカリーの先駆けはローソンが01年7月、健康サポートに特化した店舗として誕生させた「ナチュラルローソン」(首都圏に134店舗、4月末時点)で、02年には焼きたてパンのチャレンジを開始していた。インストアベーカリーは110店舗で展開しており、25商品を発売中。発売以来不動の人気ナンバーワン、「あんこギッフェリ」はナチュローの代名詞のような存在になっている。

 今月18日に行われた新商品説明会で、ナチュラルローソン商品部シニアマネジャーの東條仁美氏は「インストアベーカリーは前年比115%と大きく伸長。できたて感のある総菜が食べたいというお客さまニーズに応えるべく『焼きデリ』で商品展開をしていく」と力強く語った。

スチームコンベクションオーブンと6月30日発売予定の焼きデリ「ほうれん草とベーコンのキッシュ」
スチームコンベクションオーブンと6月30日発売予定の焼きデリ「ほうれん草とベーコンのキッシュ」

 これまでパンを焼くためだけに使っていたスチームコンベクションオーブンをフル活用して、ミートパイやスペイン風オムレツなどを取り揃え、街のデリカテッセンのような存在を目指すというわけだ。ただし、焼きデリの場合は店内で焼き上げた商品の消費期限は11時間で、販売可能時間は10時間。より長く店頭に陳列できる商品としては工場で製造する袋パンに軍配が上がる。

「焼きたてパンが売れるようになったら、袋パンの売り上げが減るのではないかと思われるかもしれませんが、私が取材したところによると両者はまったくカニバらない(=自社競合を起こさない)」(渡辺氏)

 例えばセブンでは、「お店で焼いたふんわりメロンパン」が税込み160円なのに対し、工場で製造する「サクふわメロンパン」をこの春、税込み140円から127円に値下げ。このご時世で値下げとは驚きだが、節約志向の人にとってはメロンパンの価格差33円は決して小さくない。180円を超えたツナマヨと比べれば127円のメロンパンの価格優位性は言わずもがなだ。

値下げしたセブンの「サクふわメロンパン」(税込み127円)は節約志向の人を狙う(渡辺氏提供)
値下げしたセブンの「サクふわメロンパン」(税込み127円)は節約志向の人を狙う(渡辺氏提供)

「袋パンの強みは工場生産だからこそ。多品種を効率的に製造しつつ、スケールメリットを生かして品質と価格を両立させています。だから、焼きたてパンと袋パンは別の戦略で動いていると理解すべきなのです」

 ファミリーマートは23年に発売した「生コッペパン」に続き、今年4月に発売した「超も~っちりパン」シリーズを記録的ヒットさせており、パンを巡る戦略は三者三様となっている。

ファミマの超も~っちりパンシリーズは発売24日間で1000万食を突破するほど大人気
ファミマの超も~っちりパンシリーズは発売24日間で1000万食を突破するほど大人気

 物価高が続く中で、コスパ(満足感)と「専門店クオリティー」の二極化が進んでいるのが特徴で26年はコンビニパンの当たり年となりそうだ。

☆ わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。

渡辺氏がクオリティーを高評価したセブンの「クロワッサン ベーコンエッグ」(税込み246円、渡辺氏提供)
渡辺氏がクオリティーを高評価したセブンの「クロワッサン ベーコンエッグ」(税込み246円、渡辺氏提供)