その「回転ずし」は回っていますか? 全国各地でローカルチェーンが輝いた1990年代、1皿100円の新常識で客を呼び込んだ2000年代。いくつものターニングポイントを経て、回転ずし業界は「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」のような大資本が幅を利かす時代となった(4強で市場規模の6割強!)。それでも地域密着の回転ずしが残り続ける確かな理由に、流通ウォッチャーの渡辺広明氏(58)が迫った――。

「回転寿司とっぴー~」小樽運河通り店の店内の様子
「回転寿司とっぴー~」小樽運河通り店の店内の様子

 渡辺広明(以下渡辺)本日は北海道を中心に7店舗の「回転寿司とっぴ~」(HIR株式会社)さんと、東京・神奈川に10店舗を展開する「まぐろ問屋 三浦三崎港」(株式会社ネオ・エモーション)さんにお越しいただきました。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 近真一専務取締役(以下とっぴ~)とっぴ~ブランドが生まれたのは1991年ですが、私たちはコロナ明けの2023年から事業承継して店舗を運営しています。北海道ではローカル御三家と呼ばれる「トリトン」「根室花まる」「なごやか亭」が人気を集めておりますが、老舗とっぴ~をさらに100年続く地域密着店にするためチャレンジしました。

(左から)HIR株式会社の近真一専務取締役、小林大夢氏、ネオ・エモーションの幸喜誠吾氏と石橋匡光代表取締役、流通ウォッチャーの渡辺広明氏
(左から)HIR株式会社の近真一専務取締役、小林大夢氏、ネオ・エモーションの幸喜誠吾氏と石橋匡光代表取締役、流通ウォッチャーの渡辺広明氏

 石橋匡光代表取締役(以下まぐろ問屋)私どもの創業は1996年。マグロ卸を主とする三崎恵水産の飲食事業部が独立した形です。「横浜から食文化を世界へ」というスローガンのもと、こだわりのマグロを食べていただく“グルメ廻転寿司”を中心に飲食店を経営しています。

 渡辺 その“グルメ廻転寿司”というのはフツーの回転ずしとどう違う?

 まぐろ問屋 今、回転ずし業界では、できる限り機械化して1皿100円に寄るか、ネタにこだわりつつ職人が握る工程を残して1皿を高く売っていくかという二極化が起きているんです。弊社は後者ですね。「スシロー」や「くら寿司」が普段使いだとしたら、ハレの日に選ばれるおいしい回転ずし店でありたいと。

 とっぴ~ よく分かります。物価が上がってますから純粋な1皿100円はもう大手チェーンでも残っていませんが、お客さまの中では「回転ずし=100円で安い」というイメージがまだ強く残っています。安価を求める人にとっては“グルメ廻転寿司”は高く感じられるかもしれませんが、1万円のおすしを食べる人からすると「こんなにおいしくてこんなに安いの!?」と驚かれますし、そうしたニーズを我々も意識して1貫のクオリティーを追求しています。

「まぐろ問屋」では職人がこだわりのマグロを握っている
「まぐろ問屋」では職人がこだわりのマグロを握っている

 渡辺 なるほど。僕も我が家で「はま寿司」に行くときは「惜しみなく取れ」と言うけど、1皿500円とかがある「銚子丸」のときは「考えながら食べろ」と言っている(苦笑)。そもそも今の若い子だと“回らない回転ずし”が当たり前になっているふしがある。

 とっぴ~ そうですね。大手だと実際に回しているのは「くら寿司」さんだけ。ウチもレーンにすしを流すことはなく注文はタッチパネル。店員が渡すというプロセスを大事にしていて、炙りものはお客さまの目の前で炙る。正直に言うと回転ずしは1店舗つくるのに2億円前後かかる上、投資回収には7~10年かかります。なので、とっぴ~は御三家に勝つことを目指すのではなく、地元の人に愛される持続可能な店舗運営を心がけています。

地域密着を目指すとっぴ~では活物を多くそろえる
地域密着を目指すとっぴ~では活物を多くそろえる

 まぐろ問屋 急速な店舗展開をすれば減価償却が積み重なってくるし、金利が上がるであろう世界ではリスクも高くなりますからね。弊社はレーンですしを回す店舗と特急レーンの両形態の店舗があります。大手チェーンは機械化によって人件費を下げますが、私たちは(ロボットではなく)人が握るすしにこだわって、その育成にも力を入れています。今までのすし職人の世界だとどうしてもベテランが上で、そのスキルも属人的かつ感覚的でマニュアルもない。実際、社内でスキルチェックをしたら2年目の女の子がトップ10に入ったことがあって、新しいすし職人の育成は大切だなと痛感しています。

 とっぴ~ 大手はセントラルキッチン方式が主流。店内で魚をさばいてネタを切れる人がいるだけでライブ感は変わります。活物を切れる人がいて「今、マダイを切りました。いかがですか?」と呼びかけるような接客で顧客満足度を上げていきたい。一度にやるのはなかなか難しいんですけど…(苦笑)。中小企業なのでスタッフを集めると同時に辞めないようにするのも大切で、採用の段階で決定率を上げていく。弊社ではそうした飲食店の採用支援事業にも取り組んでいます。

 渡辺 一口で回転ずしと言っても人が握っているかどうかは大きな違いがありますもんね。日本各地に“グルメ系回転ずし”が残ったほうが旅の楽しみにもなると思うし、回転ずしがあったからこそすしの間口が広がったことは間違いない。地域の一番星になることを期待しています!

大手は機械化で人件費を下げるが、職人の育成で顧客満足度を上げる作戦だ(写真はまぐろ問屋)
大手は機械化で人件費を下げるが、職人の育成で顧客満足度を上げる作戦だ(写真はまぐろ問屋)

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。