【プロレス蔵出し写真館】小橋健太(後の建太)の元に駆け寄った浅子覚が、こわだかに注意を促した。「ベ、ベイダーが『小橋はどこだ!』と、ひとつひとつ控室を開けて探してます!」。

 ほどなくして、鍵が掛かっているドアノブをガチャガチャする音が聞こえた。と同時に、けたたましい音とともにドアの窓ガラスが割られた。ベイダーが拳で叩き割ったのだ。

 ドアに体当たりして控室に侵入したベイダーは、小橋に向かって何やらわめき散らした。まさに一触即発。秋山準はベイダーを背後から抑え、三沢光晴が間に立ち、幸いにも乱闘は避けられた(写真)。

 これは今から27年前の1999年(平成11年)1月2日、後楽園ホールでの出来事。

 この日のメインイベントは全日本プロレス正月恒例のヘビー級バトルロイヤルだった。

 参加選手は小橋、ラッシャー木村、森嶋猛、ジョニー・エース、田上明、ベイダー、秋山、大森隆男、三沢、川田利明、ゲーリー・オブライト、高山善廣、バート・ガン、マウナケア・モスマン(後の太陽ケア)、新崎人生、永源遙、ウルフ・ホークフィールド、本田多聞、馳浩、泉田純、ジョニー・スミス(退場順)。井上雅央を破ったジャイアント・キマラが優勝した。

 小橋は多勢に無勢で、いの一番にフォールを奪われ退場した。15日の横浜大会で、小橋とシングル初対決が決まっていたベイダーが、試合そっちのけで小橋を追った。小橋につかみ掛かりパンチでダウンさせると、馬乗りになってなおも殴りつけた。小橋は左まぶたが切れて大流血(※小橋は顔面への頭突きで切れたと証言)。それを見て悲鳴を上げる女性客。

 秋山は場外に降りてセコンド陣と2人を制止するが、小橋が跳ねつけ、ベイダーの上に乗りパンチを乱打。一旦は分けられたが、再びパンチ、チョップとベイダーハンマーの殴り合いが続く。全日マットでは異例の乱闘劇だ。

 バトルロイヤルがまだ続く中、両者は控室に戻された。怒りの収まらないベイダーが小橋の控室を襲撃したのだった。

 小橋は試合後、病院で治療を受け、左目まぶた上を11針、内部の筋肉を3針縫い「左眼挫創」の重傷。左目上、眼球までドス黒く変色していた。翌3日の後楽園大会は、当然ドクターストップがかかったが、絆創膏を貼って強行出場した。

小橋の控室のドアの窓ガラスを割って体当たりするベイダー(1999年1月、後楽園ホール)
小橋の控室のドアの窓ガラスを割って体当たりするベイダー(1999年1月、後楽園ホール)

 さて、15日の試合はド迫力の真っ向勝負となった。ゴングが鳴るや否や小橋がベイダーに向かって行く。パンチとチョップでベイダーはコーナーにへたり込んだ。ベイダーも容赦なく小橋の左目を攻め立てる。そして全日では初となるムーンサルトプレスを繰り出した。これを小橋がクリアすると、館内からは「小橋コール」が沸き起こった。結局、ベイダーはロープ中段からのリバーススプラッシュを2連発。さらにビッグバンクラッシュを見舞ってピンフォールを奪った。小橋は途中、気管から出血。まさに満身創痍の闘いだった。

 敗れた小橋は、「ベイダーにシングルで勝つまでヒゲを剃らない!」と決意の宣言をした。

 その後、4月8日、大阪でのチャンピオン・カーニバル公式戦で30分時間切れ引き分け。16日の決勝戦(日本武道館)は、ベイダーアタックの前にピンフォール負けを喫した。「素晴らしいライバルに会えたことを感謝します」。小橋は殊勝に敗戦の弁を語った。

 悲願のベイダー越えを果たしたのは、年が明けた2000年2月27日の日本武道館大会。ベイダーの3冠王座に挑んだ一戦だ。両者、持てる技をすべて駆使して激闘を展開。フィニッシュは〝剛腕〟ラリアートだった。ベイダーは潔く、握手を求めて小橋を称えた。小橋は「これから新時代です。次の防衛戦には秋山準を指名します」と高らかに宣言した。

 そして、3月17日、自宅近く横浜・青葉区にある「バーバーウエスト」で1年2か月ぶりにヒゲを剃ったのだった。

 小橋は当時を振り返り「(初対決の横浜は)『四天王の中で誰がベイダーと最初にやるんだ』って(話が)あった中で『僕がやります』って志願した。セミファイナルまで観客が湧かなくて、〝今日は湧かないなぁ〟って思ってたら、メインで〝ドーン!〟って(笑い)。ベイダーは強かった。あんなデカいのに動きがいいし…。あの試合に負けてからヒゲ剃らないって決めた。あのときからヒゲが伸びて…。まさか1年以上かかるとは思わなかった」と明かす。

 ベイダーとは1勝2敗1分の成績だったが、試合内容はどれも濃かった。小橋を含めた四天王は、チケットを買った観客の期待は裏切らなかった。

1年2か月ぶりにヒゲを剃る小橋(2000年3月、横浜市青葉区の「バーバーウエスト」)
1年2か月ぶりにヒゲを剃る小橋(2000年3月、横浜市青葉区の「バーバーウエスト」)

 ところで、ヒゲを生やした小橋は意外と似合っていた。この年、三沢のプロレスリング・ノアに参画した小橋は、8月6日の旗揚げ第2戦で秋山にシングルで敗れた。本人も少なからずヒゲを気に入っていたのか〝リベンジを果たすまで〟と、ヒゲを剃らない〝ワイルド〟小橋が再び継続されることとなったのだ(敬称略)。【プロレス蔵出し写真館】の記事をもっと見る