火種はスプリングトレーニングよりも早く、くすぶり始めている。米紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は10日(日本時間11日)に配信した記事で、MLBで次期労使交渉の緊張が一気に高まり、最悪「ロックアウト」さえ現実味を帯びていると指摘。ドナルド・トランプ米大統領が〝介入〟する可能性についても触れている。
最大のタイムリミットは、現行の労使協定が米東部時間の2026年12月1日に失効する点だ。米主要メディアの間でも「期限到来後のロックアウトは起こり得る」と繰り返し指摘され、MLB各球団のオーナー側がサラリーキャップ導入へ布石を打っているとの見立てもある。
そこで「ジ・アスレチック」が持ち出しているのが、トランプ大統領の影だ。ホワイトハウスは過去、主要スポーツに影響を及ぼしてきた。象徴例が当時の米国大統領ビル・クリントン政権下での1994~95年ストライキ。政治が「場」を用意しても決着に直結しない一方、介入自体が巨大な注目と圧力を生んだ歴史がある。
「政治が野球に口を出す時の定番」はMLBが長年持つ反トラスト(独占禁止法)上の特殊な扱いを巡る圧力だが、同サイトは「トランプ氏は、もっと直接的に〝影響力〟を行使し得る」というシナリオを描く。その実例として挙げられるのが、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏とトランプ大統領の深い関係性だ。
実際にマンフレッド氏はトランプ大統領との面会後、永久追放処分となっている故ピート・ローズ氏の〝復権〟への扱いを巡り「検討材料の一つになった」と発言。ローズ氏は死後、かつての「ブラックソックス事件」で重い処分を食らった永久追放(資格停止)扱いが見直され、2025年5月に永久不適格リストから除外となった。
さらにトランプ大統領は、現役時代の薬物使用疑惑が向けられているロジャー・クレメンス氏の殿堂入りを支持する趣旨の発言も繰り返している。同サイトは「政治が〝殿堂〟や〝処分〟の領域にまで触手を伸ばし得る」ことに警鐘を鳴らしつつ、労使問題の前哨戦としても重ね合わせるようだ。
加えて、もう一つの導火線が3月に行われる第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)だ。大会は26年3月5日~17日にかけ、東京、ヒューストン、マイアミ、サンフアンなどで開催予定。国境・入国を巡る政策が、各国選手や運営の〝実務〟に直撃する余地がある――とも「ジ・アスレチック」は指摘している。
差し迫るロックアウトの危険性と、その局面でトランプ大統領は何をしようとしているのか。労働法には限界がある中、政権は行政や制度運用にも一定の影響力を持ち得る。さらに同サイトは税制や公的支援(スタジアム補助など)といった〝別ルート〟が、球団経営を通じてリーグ全体に効いてくる可能性も示唆する。要するに正面から仲裁しなくても「政治の握力」でMLBの空気を変えられるというわけだ。
結局のところ「ジ・アスレチック」が嘆くのは、勝者不在の構図である。労使がこじれ、そこへ政治が割って入れば最も割を食うのはどうしても現場だろう。ひいては選手、さらにファンにまで悪影響が及ぼしかねない。12月へ向けた交渉が、一体いつごろ「野球」から「国家レベル」の話へとすり替わっていくのか。WBCを挟む今春が、その〝予告編〟となる可能性も小さくない。












