またしてもブルージェイズが〝FA市場の引き立て役〟に祭り上げられてしまったのか。今オフ目玉の一人、カイル・タッカー外野手(28=カブスFA)が3日(日本時間4日)にフロリダ州ダニーデンにあるブルージェイズのスプリングトレーニング用施設を電撃訪問。トロント界隈は「本命視」の空気に沸き立ったが、米老舗誌「スポーツ・イラストレイテッド」の電子版「ON SI」が示した構図は「これはタッカー側によるFA市場支配の〝値段つり上げショー〟の開幕にすぎない」という極めて冷淡な見解だった。そしてその裏には、ドジャース・大谷翔平投手(31)とブルージェイズがたどった〝黒歴史〟がくっきり重なっている。
タッカーはタンパ生まれで同施設まで車で30分。環境的理由での訪問は自然だが、これだけでは「ブルージェイズが気に入られた」という証明にはならない。むしろFA交渉の常とう手段でもある〝最初は利用しやすいチームから回る〟という鉄則を、そのまま踏襲した流れと見る向きが強い。
トロントの豪華な同施設は1億ドルを投じて改修されており、SNS映えや話題性、報道規模のすべてが完璧。FAスターが他球団への〝交渉材料〟として使うには理想的すぎる舞台だ。
事実、タッカーが今後交渉するであろうヤンキース、ドジャース、フィリーズ、オリオールズらの〝金満球団〟への牽制としては最高のカードである。
そしてタッカーのブルージェイズ施設訪問に関する報道を語る上で欠かせない要素が、言うまでもなく大谷を巡った2023年冬の〝あの悪夢〟だ。
エンゼルスからFAとなっていた当時の大谷は、極秘でダニーデンのブルージェイズ同施設を訪問。さらにGMは姿を消し、監督の予定も突然変更。一部の敏腕ライターがプライベートジェット機追跡で誤認し「大谷がトロントに向かっている」との誤報騒動まで引き起こし、全米が一時「ブルージェイズ確定」のムードに染まった。
数日後、それは完全なフェイクニュースであったことが判明。メガディールを提示したドジャースが大谷を強奪する格好となり、ブルージェイズは世界的な〝ぬか喜びの象徴〟となってしまった。つまりトロントはいまだに「スター選手に寄り添われたと思ったら、最後に奪われる」というトラウマを抱えている。
タッカー訪問のニュースが出た瞬間から、この記憶がフラッシュバックした多くの地元ファンは「過度な期待は禁物」「もうだまされない」とのムードに包まれているという。
前出の「ON SI」が指摘した最大のポイントは、タッカーがトロント入りを実際に望んでいるのかではなく「ブルージェイズをどう利用するか」に焦点があるという点だ。
タッカーの契約は3億5000万~4億5000万ドル級。「ブルージェイズ施設訪問」の事実ひとつで他球団の提示額ははね上がり、FA市場全体がタッカー、そして代理人のケーシー・クローズ氏を中心に回り始める。そのための〝燃料〟をブルージェイズは提供したにすぎないと冷静に分析する声は根強い。
さらにブルージェイズがタッカーを獲得するには当人がクオリファイング・オファーを拒否した背景もあり、次のドラフトで3位および6位の指名権を喪失するだけでなく、残留には大金が必要なFAのボー・ビシェット内野手(27)の去就にも少なからず影響を及ぼす。合理的に考えれば、タッカー陣営の最適解はトロント以外に存在する可能性が高い。
ブルージェイズは大谷に続き、またしてもビッグスターの交渉劇に振り回されるのか。それとも今度こそ本気の獲得へ踏み切るのか。ただひとつ確かなのはタッカーのFA市場を動かしているのは選手側であって、ブルージェイズではないという強烈な事実だ。












