【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「ちょいゆる、くらいです」。昨年6月、まだ25歳だった山本由伸選手と初めて話した時に出てきた言葉。もう1つが「コツコツ」。この2つの言葉がとても印象に残っている。
ちょうど選手たちのスランプ脱出方法を聞いて回っていた時期で「ロングドライブへ行く」「ユニホームごとシャワーを浴びる」「スカイダイビング」「朝のコーヒーを緑茶に変えてみる」などなど…。技術面以外のところでさまざまな工夫が飛び出した中、山本選手は「僕、本当に何もないんですよ」と言って少し考え「まあ、友達に会うとか?」とひねり出しながら笑った。
メジャーデビューして3か月。友人らは日本だし、スケジュールも過酷すぎて、そんな気分転換もできないのが当時の状況だった。
「ちっちゃい、気持ち的な(落ち込み)はよくありますけど、あんまりないように今まで練習してきたというか。感情の浮き沈みがあんまりないように頑張ってきましたね」。スランプをスランプと捉えないゆとりに聞いていて思わず「ゆるっとしてますね」と言うと、山本選手は「僕ですか?」とちょっと驚いてから「ちょいゆる、くらいです」と再び笑った。
連続で打たれた経験がないわけではない。「もちろん3試合か4試合、5失点したりもありました。その時はその時で早く戻さないとっていう気持ちで必死にやるんですけど、周りの人がいろいろ言ってくるんですよ。いいコーチもいるんですけど、変なコーチもいて。調子が悪い時とかにここがこうなんじゃない、ここはこうだよ、みたいにどんどん言ってくるんです」。以前はそういう言葉に揺さぶられたりもした。アドバイスを聞きすぎて、ドツボにハマる同僚も見てきた。
「でも、原因はそんなことじゃないんです、本当は。ずっと同じ練習をしているし、(トレーナーの)矢田(修)先生のところとかにずっと通っているんで『コツコツやってちゃんと戻れる』っていうのがあるので。そこにしっかり集中して、いろんな人の声を全く無視するではないですけど、しっかり聞き分けはできるように意識はしてきました」
「何て言うか、コツコツですよね」と繰り返す〝ルーキー〟に、何と理解が深いのかと思ったことを鮮明に覚えている。
あれから、わずか1年半足らず。連続完投試合、しかもメジャーのポストシーズンでって、進化が早すぎやしませんか? 情報処理が追いついていない脳みそが、その2試合で山本選手の相棒役を務めたウィル・スミスとの会話を思い出した。
「自分を信じると同時にリラックスして、状況を大きく捉えすぎない。やるべき仕事に集中し、余計なことはしようとしない。自分が何をすべきかを理解し、それを実行すること」
状況が良くも悪くも感情を一定に保ちながらプレーすることが理想とされる中で、チーム内やメンタルコーチらから「特に感情の振れ幅が狭い」と太鼓判を押されるのがウィルだ。
「ただ、どうしたってポストシーズンの試合は自分よりずっと大きい。感情が一番高ぶる時こそ、一番大きな瞬間で、リラックスして自分の仕事に集中するのが一番難しい。だから、その瞬間にやることだけに集中する。やるべきことは全部、すでに準備の中で整っているのだから」
聞いたタイミングも言語も違うのに、2人が同じことを言っていたのが今なら分かる。
「己の力に集中する」。ワールドシリーズは、極限の集中力を保てたチームが勝利を手にする。












