【女子プロレス最強レスラーの告白 神取忍 お前の心を折ってやる(14)】1987年の正月興行で右目にケガを負った。治療費も休養も許さず出場を強要する会社に不信感を持ち「納得がいく返事がもらえるまで試合には出ない。フリーにしてくれ!」と宣言した。結局、会社が治療費を持つと態度を変え、説得される形で再びリングに上がった。でも、この復帰を快く思っていない人が一人いたんだよね。

 ジャッキー佐藤さん。団体の看板選手であると同時に、団体の発起人で経営者サイドの人でもあった。「神取は何をごねているんだ」と思っていただろうね。だって、ジャッキーさんのいた全日本女子プロレスでは、選手がフロントに盾突くなんてありえなかったんだから。

 復帰後、タッグマッチでジャッキーさんと戦う機会があった。なんとなく、嫌な雰囲気を感じていたんだ。そして5分過ぎ、ラリアートが顔面、しかもケガをしている右目に飛んできた。故意か偶然かは分からない。でもあの時は「わざとだ」と思った。普通ラリアートは胸とかだからね。「ケンカを売ってきたな」と腹が立った。もちろん、売られたケンカは買うよ。すぐに会社に「シングルマッチをやらせてくれ」と頼んだ。ジャッキーさんは受けて立つという。早速試合が2週間後に組まれた。

 ジャッキーさんの行動で許せなかったのは、やはりケガをした目を狙ったことなんだ。プロレスラーになって、プロとして教わってきたことに反する行動だった。目や首といった急所を狙うということは、プロレスラーの人生を奪うかもしれないわけだからね。信頼関係を崩す行為だった。「許せない」と正義感に燃えた部分はあった。ジャッキーさんに本当の痛みを味わわせたい。心でも感じる痛みを、とあの時は思ったんだよ。

 試合当日を迎えた。7月18日、大和車体工業体育館大会。ジャッキーさんは、この試合が壮絶なものになると分かっていたから、秘密特訓をしていたらしい。若手選手が練習相手のために何人か呼ばれていたんだ。選手たちは会社側、すなわちジャッキーさん側か神取側か、どちらに付くかで悩んだそう。何が起こるか分からない。選手たちが固唾をのんで見守る中、試合開始のゴングが鳴った。

 怖さなんて全然なかった。そもそも誰に対してもないからね。チケットを買ってくれたファンのために、最初の3分間はじっくりとプロレスの攻防を展開した。普通に攻めてくる自分に、ジャッキーさんは最初、戸惑ったと思う。もしかしたら「ラッキー」と思ったかもしれない。頭の中でだいたいの時間をカウントし、2分が経過し、1分、30秒…0。スイッチオンとなった瞬間、ジャッキーさんの顔面を殴りつけた。