【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】スプリングトレーニングは体力勝負だ。朝も早く、太陽の下で長時間働くことに慣れていない体と頭をブラックコーヒーで起こしながら練習施設に着くと、さっそくクラブハウスで50分間の取材時間。主にドジャースを担当しているため、朝からパーティーのような人だかりの中で話せる選手たちを探し、その後はロバーツ監督の朝の会見で少しでも声が聞こえる場所を確保しようと、30~40人で陣取り合戦が繰り広げられる。

 その間にも選手たちが練習に出てくるので「〇〇はどこに行った?」「こっちでブルペン入る」「△△はどこ?」といったやりとりが日々繰り返される。そんな合間にふらっとマリナーズキャンプへお邪魔してみた日のこと。何と朝のクラブハウスを取材する記者はゼロ…。午後も開くため、そこを狙う人も多いそうだが、あまりにも目立ち過ぎて10分程度で外に出たところ、出会ったのが球場にはややミスマッチな分厚い本を展示していたチャーリー・ワナーさんだった。

「『ベスト・オブ・レガシー』という出版社で、選手らに特注の記念本を製作しているんだ。過去記事などをさかのぼり、選手の軌跡を1冊の本にするんだよ」

 実は20年にわたるサービスで北米4大スポーツの他、映画監督や俳優など著名人のものも手掛ける。「大活躍した年だけで1冊作る人もいれば、引退時にご家族が選手へのギフトとして作ったり。野球だけで年間200~300冊の発注がある」。大きさは横33センチ、縦48センチのいわゆるコーヒーテーブルブックサイズで、見本の「マイク・ムスタカスの2016&2017野球シーズン」を触らせてもらうと、ズシリと重い。

 イタリア製の革仕様という表紙をめくった左側には動画モニターが内蔵され、ボタンを押すと当時のマイクのハイライト動画が流れ出してビックリ。マイクの打撃の瞬間の写真をモザイク画加工した中表紙をめくっていくと「ムスタカスの11回の本塁打でロイヤルズがエンゼルスを3―2で破った」「ムース、ホームランダービーで打ち込む準備万端」など、当時ロイヤルズの三塁手として活躍したマイクを主題にした新聞記事やネット記事が、カラー写真とともに収録されていた。

 何となくノスタルジックな気分になる。何より、記事を書く身としては、多くは忘れられてしまう何年も前の記事がこうした形で残っていることがとても感慨深かった。創業者のストーン・メレット氏はその昔、朝番組でアンカーやリポーターを務めたメディアマンだったそうだ。

 お値段1冊60ページで2500ドルから。ページ数を増やすと値段が上がり、動画は450ドル。リサーチ&デザイン担当チームが依頼者提供の素材と合わせながら8週間ほどで完成させ、特注の木箱に入れて届けられる。

 本がとても美しかったので「ファンの人たちから注文殺到しない?」と聞くと「僕らはね、あくまでも特別なものとして贈りたいから、一般には販売していないんだ。増刷でもうけるつもりもないから、同じ2冊目は600ドルから買える。唯一無二を大事にしている」。イチローさんやドジャース・大谷翔平選手の本も手掛け「翔平はエンゼルス時代の総集編の依頼をもらったよ。彼の代理人が優勝記念号をギフトにしたいって作ったから、2冊持っているはず」だそうだ。

 日本語の記事も、依頼者から提供があれば収録しているのだとか。実に楽しそうに語ってくれたチャーリーさん。ふらっと現れた記者が、この本のおかげで元気をもらったことに気づいているだろうか。よし、今日も頑張ろう!