巨人には“鬼”が必要だ。東京スポーツ専属評論家で元巨人ヘッドコーチの伊原春樹氏が、阿部慎之助監督(44)率いる新生巨人を表敬訪問。自身の指導経験から“最大の不安”と評していた二岡智宏ヘッドコーチ(47)を直撃し、参謀役の器を品定めした。そこで鬼軍曹が見たのは、16年前の試合で涙を流した教え子の成長と覚悟。伝統軍団の復活へ、戦うベンチの態勢は整ったとみた。

 【新鬼の手帳・伊原春樹】阿部監督とは4年ぶりの直接対面となったが、まず印象的だったのが表情の変化だ。ここ数年、コーチとして苦労を重ねたのも大きいのだろう。良くも悪くも常にピリッとした空気をまとう男だったが「お久しぶりです。どうぞゆっくりしていってください」という言葉は実に穏やかで余裕が浮かんでいた。「ブレずにやれよ」との声掛けにも素直にうなずいてニッコリだ。“監督らしさ”が出てきたな、と感じた。

 首脳陣や球団スタッフにも話を聞いたが、みな同様の変化を指摘していた。だが阿部監督が丸くなるだけでチームはまとまらない。私の経験上、引き締め役は必要。実は巨人の組閣が発表された時点から、私は参謀役である二岡ヘッドコーチの人選に一抹の不安を感じていた。「あのニイが慎之助を支えられるのか。鬼になれるのか」と…。

 少々、時をさかのぼる。2007年から4年間務めた巨人ヘッドコーチ時代に“鬼軍曹”と呼ばれた私だが、本気で叱り飛ばした選手は実は2人しかいない。阿部と二岡だ。阿部監督に対しては、エンドランサインの怠慢走塁を叱った。先輩の二岡が必死に右打ちしたが、一塁からのスタートが甘く、二塁で悠々アウト。「失礼だ。足が速くなくても、やるべきことはやれ」と諭した。以来、彼は手を抜かなくなった。

 二岡ヘッドには08年のある試合でガツンとやった。チャンスで覇気なく空振り三振を連発した彼に、私は試合後のミーティングで声を張り上げた。「今日のスイングはなんだ! 若い選手は試合に出たくてウズウズしているんだぞ。主力のお前があんな気のない姿を見せて、いいと思っているのか!」。すると驚いたことに、彼はその場でボロボロと涙を流した。物静かで優しい男だが、同時に致命的な“弱さ”も感じた。

 ところが今回の訪問で、私の不安は全くの杞憂だったことが分かった。球団内で評判を聞くと「二岡はファームでも相当厳しく指導していました。若い選手たちは震え上がっていますよ」と水野スカウト部長。亀井コーチも「二岡さんがにらみを利かせてくれているので、僕らもやりやすいです」と話した。

 もちろん、本人も直撃した。「ずいぶん厳しくやっているらしいね」と水を向けると、二岡ヘッドは真顔で「ええ、厳しくやっています」と即答した。私とのやりとりも鮮明に覚えているといい「やっぱり、ああいった厳しさも必要ですよ」とキッパリと口にした。

 聞けば二軍、三軍の指導経験で「厳しさ」の必要性を強く認識したという。「ファームには、ジャイアンツのユニホームを着られただけで満足している子が本当に多いんです。こっちは1人でも多く一軍に上がってもらいたいと思っているのですが、選手の意識がそれでは…。見守っているだけではダメだと思い、ある時から選手との接し方、距離感を見直しました。今は言うべきことはガンガン言うようにしています」と話してくれた。一軍ヘッドコーチに立場を変えても「僕なりに役目を意識して監督を支えます」と頼もしかった。

 今季はまだ投手力に不安が否めず、戦力充実とまでは言い切れないが…。阿部監督の変化と二岡ヘッドの覚悟を見る限り、戦うベンチの態勢は整っている。阪神を追う1番手はやはり巨人だろう。(本紙専属評論家)