なぜJ1川崎出身の選手は大成できるのか。元日本代表FW武田修宏氏(56=本紙評論家)が、MF三笘薫(26=ブライトン)、MF旗手怜央(25=セルティック)ら海外クラブや日本代表で活躍する選手を獲得してきた川崎スカウト担当部長で元Jリーガーの向島建氏(57)と緊急対談。有望な選手をスカウトできる〝川崎の流儀〟に迫った。

対談する向島氏(左)と武田氏
対談する向島氏(左)と武田氏

 武田氏(以下、武田)初めてお会いしたのは静岡県ジュニア世代の強化合宿。先輩が静岡学園高で自分はまだ中学生だったけど、同じ練習を…。それから県選抜で清水東高(静岡)の先輩(長谷川)健太さんから指導を受けたとき、ヤス(三浦泰年氏=JFL鈴鹿監督)さんと向島さんが温かく対応してくれた。優しいお兄さん。

 向島氏(以下向島)タケはとにかく速かった。それにスター性があったね。プレーする姿もたたずまいも。言葉でいうのは難しいけど、雰囲気があったんだよ。後にスカウトになって大事な要素の一つだと思った。高3の(全国高校サッカー)選手権の県予選決勝でタケに4点取られて負けたんだけど、その時はサッカーを辞めようと思ったよ。

 武田 そんなことあったの? 静学とは清水東時代も戦っているし、Jリーグが始まり、清水時代も含めて試合でも対戦しているし、先輩とは長い付き合いですよね。それで現役を辞めて、指導者を目指すと思っていたけど、スカウトになっちゃった。キッカケは?

 向島 川崎に移籍してからも(古巣の)清水からは引退したら育成の指導者で戻ってきてくれって誘われていたんだけど、川崎に残って指導者を目指すことに決めた。2年半がたったころ「スカウトをやってみないか」とオファーされて。一番やりたい職業の選手を終えて、最初はいろいろな部署も経験させてもらって指導者を目指していたんだけど、トップチームにも関わってみたいなって思い始めていた。ただあんまりスカウトの印象って良くなくて。グレーというか。選手を獲るときのえげつないやり方とか…。あくまでイメージね。

 武田 野球もそうだけど、昔は接待攻勢だったり、選手の両親やチームの監督にこび売ってるようなイメージ。意中の選手を獲得するためには何でもやるって…。たしかに印象は昔からですね。

 向島 自分の選んだ選手がJリーグでプレーする姿を見るのもいいかなって思った。

 武田 引退してからだと、スカウト歴はもう約20年。もうベテランですよ。初めは経験もないし、人脈もない。どういう方針で「獲ろうか」って決めるの?

 向島 初めにGMの庄子さん(春男=現仙台GM)と話をし、スカウトを始めるにあたっていろいろ決めたんだけど「接待攻勢とかしませんよ」と宣言して。なるべく川崎で長くプレーできる選手を中心に獲得するって方針を伝えると「それでいい」って。それからチームのスタイルに合う選手に声をかけたかな。でも最初はJ1に昇格したばかりのチームだったし、その年代のトップといわれる選手を獲りに行くことはできなかったね。そういった選手がスムーズに獲れるようになったのはチームがJ1に定着してからだね。

 武田 選手のどこを見て、獲得しようってなるの? スクールをやると子供たちは「将来Jリーグに行きたい」って言うけど、先輩の場合はどこを見ているのか。

 向島 まあ、選手の足りないところを見ると、きりがないから良い部分を見る。秀でた部分、特長があるかは大事だね。それと人間性を見るよ。川崎は基本的にエゴを出しすぎる選手はいらない。試合に出られないと、選手って文句を言いがちなんだけど、そうじゃなくて常にチームのために自分のプレーを出せる選手がほしい。そこはブレないようにしているかな。

 武田 先輩はいつも人間性が大事って言ってますもんね。自分ではなくチームを一番に考えられる選手…それは(日本代表の)森保一監督と同じだね。以前に話をしたとき「チームのために戦える選手」と言っていた。考え方のベースは一緒なんだよね。

 向島 そうなんだ。他のクラブからは「川崎の選手ってみんなおとなしいね」「主張しない選手たちばかりみたい」って言われるけど、自分をコントロールできる選手が多いと思う。表に出さないけど内に秘めてる選手がほとんど。ウチはそういう選手を獲っている。例えば、新人の獲得で川崎と他クラブで悩んでいる選手は、無理やりこちらには向かせない。川崎でサッカーがしたい、うまくなりたい。そんな強い思いを持った選手でないと川崎の独特なスタイルやレベルの高い集団ではプレーできないと思う。川崎でプレーしたい選手に来てほしいからね。

 武田 スカウトで一番苦労したことは? 選手を強奪されたり、両親や監督から無謀な条件を出されたこともあったんじゃないの?

 向島 いろいろな話があることは聞くけど…。まあ、自分の場合は多くのクラブが(鹿児島城西高の)大迫(勇也=現神戸)で争っているとき、みんなが追いかけていない選手を獲りに行ったりね。以前高校生の獲得時に選手は川崎でプレーしたがっているけど、父親があるクラブスカウトから接待攻勢されて…うちは過剰な接待はしない。それで選手、両親をまじえて話をしたけど、結局は親が勧めるクラブに入団したよ。縁がなかったってことだ。

 武田 食事やお酒とかの接待攻勢ね。ところで、よく聞く話だけど、選手を獲得するときに監督の意向とGMや強化の意見とか、その辺のすみわけはどうなっている?

 向島 監督やコーチングスタッフに意見を聞いた時もあるけど新人に関しては基本的にフロント主導で我々スカウトの仕事。最終判断はGMになるけどそこはスカウトを信頼してもらってるので外国人とか主力の補強ってなると少し違うけど。

ドリブルで相手を置き去りにする三笘
ドリブルで相手を置き去りにする三笘

 ☆むこうじま・たつる 1966年1月9日生まれ。静岡・藤枝市出身。静岡学園高から国士舘大を経てJSL東芝(現J1札幌)入り。92年にJリーグ参入を決めた清水に移籍し「牛若丸」の愛称で親しまれた。97年に川崎へ移籍。2001年に現役を引退し、05年から川崎でスカウトを務める。現在は強化部スカウト担当部長。