ブレークしたスピードスターの軌跡とは――。昨年のカタールW杯を経て日本代表のエースに成長したMF三笘薫(26=ブライトン)の獲得に尽力したJ1川崎のスカウト担当部長で元Jリーガーの向島建氏(57)が、元日本代表FW武田修宏氏(56=本紙評論家)と緊急対談。「世界の三笘」が下部組織からトップチーム昇格を拒否し、大学進学、再獲得するまでの舞台裏に迫った。
武田氏(以下、武田)川崎でプレーした選手が世界で活躍しているよね。三笘選手や板倉選手(滉=26、ボルシアMG)、守田選手(英正=28、スポルティング)、旗手選手(怜央=25、セルティック)とか。やっぱりサッカーだけではなく、人間性が大事ってことだと思うけど、現状をどう見てるの?
向島氏(以下、向島)海外でプレーする選手は、人間力というか自分の能力を把握できていて、自分の良いところ、足りないところを理解しているかな。次に何に取り組むべきか、何をつけ足していくかも理解している選手。三笘なんかもそうだったよ。
武田 三笘選手はユースからトップ昇格を断って筑波大学に進学したんだよね。自分に何が足りないかを分析し、進学を選んだんでしょ。
向島 トップ昇格ってなったとき、薫は「上がりたくない」「まだ自信がない」ってね。アカデミーでは(昇格の)同意書をもらっていたんだけど、薫の場合は特例だね。当時三好(康児=26、バーミンガム)とか板倉がトップで試合に出ていなかったから、いろいろ考えたんじゃないかな。大学でどう成長するとか。そういう道筋を立てていた。残念だったけど、まだ体ができていなかったし、大学でしっかりトレーニングして成長するのも大事と思った。
武田 三笘選手のトップ昇格を決めた時点で十分にやれる力があったんでしょ。当然、クラブに戻るという約束はしただろうけど、筑波に行くとなれば、川崎が育てた選手を他のJクラブに取られる危険性もあったんじゃない?
向島 だから、大学にも頻繁に顔を出して。話したり、食事したりね。そのときに「あるチームが練習参加させたがっていたぞ」とか言うと「オレ、フロンターレしか考えていないんで大丈夫ですよ」とか言ってくれて。毎回その確認なんだけど。それでも大学3年で入団の仮契約するまでは他クラブに奪われるんじゃないかと心配だった。アカデミーの指導者が大事に育てた最高の逸材をしっかりとクラブに戻すことも我々の仕事だよ。
武田 やっぱり花と一緒でキレイに咲かせるためには毎日、水をあげないとダメなんだな。でも人間性もあってチームに必要な選手って思うからクラブの縛りがなくなっても会いに行く。やっぱり努力してますね。
向島 薫の場合はサッカーに対してきちんと向き合えているし、人の話を聞いてそれをプラスにできる。賢いんだよ。例えば才能ある選手でも監督と合わず、世に出てこられない子もいるけど、薫はある程度、指導者が何を考えて、何を要求しているかなど合わせることもできる。もちろん貫く部分もあるんだけど、そういう柔軟性も選手には必要なことだからね。
武田 そうだね。カズさん(三浦知良=56、オリベイレンセ)も監督と話し合って、いつも考えとかをすり合わせていたし、一流はそういうところまで考えてやる。それで三笘選手がプロとして戻ってきて、1年目から、すごかったよね。衝撃だった。
向島 ドリブルでガーと抜いてっちゃう。プレーについて薫と話をしたとき「大学では毎試合、全員抜くつもりでやってましたから。だから今のプレーができるんです」と言っていた。おー、なるほどねって。先々の目標を立ててやっていたんでしょう。なかなかいないタイプの選手かな。
武田 意識が高いというか、しっかりした選手だよね。先輩も川崎出身の選手が世界でプレーしているのは自慢なんじゃないの?
向島 いやいや。選手たちの努力だから。それにオレは川崎のスカウト。本当はチームのためにやれる選手を獲ってきているんだけど、みんな海外に行っちゃうから。薫も入団する前に「オレ、なるべく早く海外に行きたいんですよ」って言っててね。そこは仕方ないんだけど「Jリーグでやる前からそんなこと言うなよ」って言ったよ。
武田 三笘選手は海外進出し、ベルギーを経てイングランドで大活躍しているけど、川崎時代とどう変わった? 明らかに成長したでしょ。
向島 体、フィジカルは変わったね。ユースのころ、スピードはそんなでもなかったけど、大学で走力の練習して。見違えるように速くなったし、体もしっかりしてきた。でも世代別代表に呼ばれると、おなか壊して戻ってくることも多々あった。逆に同世代の旗手はタフでどんな環境でもプレーが変わらなかったけどね。オフに戻ってきたときに薫に聞いたらブライトンでも、いろんな練習を取り入れているって。もっと成長するよ。
武田 そういえば三笘選手は下部組織にいたころから別格だった?
向島 薫のプレーをジュニア(小学生)のときに見て光っているなって感じた。もう全然違うんだよね。久保(建英=22、レアル・ソシエダード)をジュニアで見たときも「うめーな、すげーな」って思ったし、何でもできた。代表になれる選手は子供のころからタケを初めて見たときのような雰囲気があるよ。
武田 ところでスカウトの意見として、日本代表のエースになれるようなストライカーってどうなのかな。森保監督にも言ったんだけど、育っていないのか、なかなか9番の選手が出てこない。
向島 ストライカーは難しいね。いないわけじゃないけど、育てられるものではないかな。可能性がある選手はいるけど全部がそろっている選手はそんなにいない。一つ言えるのは、点を取るやつは、どこのカテゴリーでも取るってこと。それに詳しいことは言えないけど、最近気づいたのはストライカーに限らず地域性や育ち方はある。そこは企業秘密だけどね。
武田 ストライカーは感性とか、育った家庭の環境とかいろいろあると思うから育てるのは難しいかな? 秘密はあとで個人的に教えてくださいね。それと選手は海外に行っちゃうけど、下部組織出身の選手も多いから、移籍金とか連帯貢献金とかでクラブの財政を潤しているよね。
向島 フフフ…。
武田 最後に約20年もやっていると、いろいろとコツもあるでしょ。スカウトを目指す人たちに講師とかやったら。
向島 いやいや優秀なスカウトの方はたくさんいます。でもみんながスカウトって職業をやってみたいなって思うようになればいいかな。それに以前はイメージ悪い印象だったし、もっと重要な仕事だっていうことを伝えたいと思う。ただ選手の人生を決めてしまう責任ある立場でもあるから、これからも選手と向き合ってブレずに誠意をもってやっていきたいかな。タケも早くグラウンドに戻って来てよ。
☆むこうじま・たつる 1966年1月9日生まれ。静岡・藤枝市出身。静岡学園高から国士舘大を経てJSL東芝(現J1札幌)入り。92年にJリーグ参入を決めた清水に移籍し「牛若丸」の愛称で親しまれた。97年に川崎へ移籍。2001年に現役を引退し、05年から川崎でスカウトを務める。現在は強化部スカウト担当部長。














