【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「あなたはフリーエージェント(FA)になった時のショウヘイになりたいと思うか?」

 プレーオフが始まる1週間ほど前、エンゼルス・大谷翔平と約3年半、チームメートだったアンドルー・ヒーニーにそんな質問をした。

 アンドルーは普段から真顔というか、素の顔がちょっとシリアス。声も低いものだからいつも緊張感があるが、その質問に顔がさらにこわばり「彼になりたいかって? そんな惨めなこと絶対嫌だよ」と言った時には一瞬、質問を失敗したかと凍りついてしまった。

 アンドルーはお構いなしに「だって29球団のファンの心を折るんだよ。プレッシャーはすごいだろうし、理想を持てるところを選ばなければならないけど、選んだ先が理想通りになるとは限らない」。ここまで言って、ちゃめっ気たっぷりに笑った。

 こんなドライなユーモアを持った人だったのかと思っていると再びクールな表情に戻り「FAで自分はいい決断をしたんだって思いたいから、難しいプロセスだよ。自分はショウヘイよりもずっとずっとずっとずっと下のレベルで経験し、メディアの報道は少なかったし、自分がどこに行くか興味を示してくれる人も興奮してくれる人も少なかったけど、それでも自分の下さなければならない決断、契約先で起こりうる予想できない結果など、いろいろ認識することは多かった」。

 FAについて選手らに聞くと、その反応の多様性に驚くのだが、選手にとって特権であるFAにたどり着いた達成感や栄誉に浸る間もないまま、駆け引きという新たなゲームに突入すると捉える選手は結構多い。

「選手としてはFAになるために、FAで少しでも良い条件が得られるようにと一生懸命やっているから、実際にそこにたどり着いて選んでいいよって言われた時はすごく良いフィーリング。だけど今まで選択肢なんてなく、言われるがままにプレーしてきたから、実際に選ぶ時になって初めて選び方を知らないことに気づく」

 自分はとても真剣に向き合ったとアンドルー。

「球団が自分をどう評価しているか、フィットする役割は何か、地理的条件、チームの勝利曲線はどんな感じか、そしてその曲線のどこにいるか。当然、金額は大きな考慮条件の一つだし、契約年数も。家と仕事とのバランス、家族の幸福、全てが決断要素になる。僕はかなり葛藤した」

 最後はドジャースかレンジャーズのどちらかまでに絞られた。

「ドジャースで過ごした時間はとても良かったけど、自分の人生において今自分がいるところ、野球場の内外で起こったことを振り返ると、自分が今ここにいられることがとてもうれしくありがたいことだと思うから、結果的には良い形で作用したと思う。自分は…自分の決断に重みを持って向き合って本当に良かったと思う。自分にとって何が大事か時間をかけて見つめたことが功を奏したって思えることがうれしい。だから、ショウヘイにも、彼にとって良い判断を下してほしいし、決断した先でハッピーでいてほしいと心から願うよ」

 友人を思う優しい笑顔だった。8年前に初めて彼に会った時から比べると、明らかに一皮も二皮もむけた印象のアンドルー。ドラフト1位指名から数回のトレード、DFA(ロースター40人枠から外れる)を経てなおもマウンドに立つ彼は今、ワールドシリーズをかけて戦っている。 

 ☆アンドルー・ヒーニー 1991年6月5日生まれ。32歳。米国・オクラホマ州出身。188センチ、91キロ。左投げ左打ちの投手。2012年のMLBドラフト1巡目(全体3位)でマーリンズから指名されて契約。14年6月19日のメッツ戦でメジャーデビュー。15年シーズンからトレード移籍したエンゼルスでプレーし、同年後半から先発ローテーションに定着。16年に左肘のトミー・ジョン手術を受け、18年シーズンに復帰。20年にはエンゼルスの開幕投手を務める。その後はヤンキース、ドジャースを経て23年からレンジャーズと2年契約を締結。今季は自身初の10勝をマーク。