【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】

「もうこれでおしまいだよ。時が来た」

 隣の部屋にも届きそうなはっきりとした声で「ティト」ことガーディアンズのテリー・フランコーナ監督が言った。

 知り合って17年だが、10年前の日米野球取材でたくさん話す機会をもらって以来、遠征で訪れるテリーのいる監督室に顔を出しては「ヘイ、ストレンジャー!(『久しぶり』という意味のスラング)」と声をかけられるのが、習わしのようになった。

 この日もいつものようにたわいもない話をしていた。テリーはちょうど足首に巻いた大きなアイシングパッドを調整しているところで「もうアキレス腱がダメでさ! トシだね」。「そりゃあ、20年以上も監督していたら、どこかしらガタが来てもおかしくないでしょう」と返すと「ああ。でも、今年で終わりだ。体も心もそう感じている。(引退の)時が来たって。あと数週間過ごしたら僕はここにいない」と、ほんのりと赤いほっこりとしたほっぺをさらに押し上げ、いたずらっぽく告げられた。

 テリーは不思議な人だと思う。球団広報いわく、テリーは約2週間前から「引退をにおわせ始めた」そうだ。「インタビューなどで、それとなく話しているのにオフィシャルにしないのは、できる限り自分より選手にスポットライトを当てたいからだと思う。でも、フロントオフィスには“次に誰かがくるからね、準備してね”と暗に伝えているんじゃないかな。そういう人だ」

 テリーの父、ティト・フランコーナさんも1956年~70年にかけて活躍した野球選手。テリーの人生は野球一色と言っても過言ではない。一見すると気の良さそうな明るいおじさんだが、どんな選手とも向き合い、まとめ上げるのがうまいとうたわれる名将だ。

 何か紹介できないかと探していたら、レッドソックスでデビューしてから7年間テリーと一緒だったダスティン・ペドロイアが「プロ入りしたばかりの生意気で口の利き方を知らない自分が間違って上司に盾突いた時、ティトがチャンスをくれたおかげで自分の野球人生はある」とテリーについて語るポッドキャスト「ベースボール・イズント・ボーリング(野球はつまらなくない)」を見つけた。

「ティトは、世話が焼ける選手から一人ひとり懐柔していくんだ。信頼でリーダーシップを発揮させ、それを見た選手の多くはティトが何もしなくてもならうようになったりと、無秩序そうに見えてしっかりとしたメソッドが存在する」

 あのシニカルなダスティンが恩師への感謝を30分以上の熱弁をふるっている。

「毎日、球場へ行って自分の後ろ盾になってくれ、一緒に楽しんでくれる。自分の仕事を心から愛している監督のもとでプレーできることが楽しみで仕方なかった。僕らは野球ビジネスをしているんじゃない。ファミリーなんだって」

 テリーに辞めた後のプランを聞くと「全くのノープラン。プランを立てなくていい生活こそがしたい。ずっとノンストップだったからね。まずは家に帰ってゆっくりするさ」と吹っ切れた笑顔を見せた。

 テリーの「ヘイ、ストレンジャー!」。監督室を後にしながら、あれが最後だったのか…と寂しくなった。9月の野球はプレーオフに向けた楽しみの中に、別れへの切なさも交ざっている。フランコーナファンの方がいたら、ぜひ悔いのないよう最後まで見届けてほしい。

 本当にお疲れさまでした。

 ☆テリー・フランコーナ 1959年4月22日生まれ。64歳。サウスダコタ州アバディーン出身。左投げ左打ち。185センチ、85キロ。80年にエクスポズ(現ナショナルズ)と契約。カブス、レッズなどを経て90年シーズンを最後に現役を引退。97年にフィリーズの監督に就任。2002年にレンジャーズ、03年にアスレチックスでベンチコーチを歴任。04年からレッドソックスで監督に就任し、同年にチームを86年ぶりのワールドシリーズ制覇へ導き、07年も世界一の座に。13年からインディアンス(現ガーディアンズ)の監督を務める。13、16、22年と計3度にわたってア・リーグ最優秀監督賞を受賞。