7月の水泳世界選手権(福岡)では、競泳日本代表が苦戦を強いられた。10個の世界記録が誕生した一方で、トビウオジャパンは日本記録ゼロに終わり、自己ベストを更新した選手もわずか4人。メダル数も21世紀以降最少となる銅2個にとどまった。世界との差が広がる中、リオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介氏(29)を直撃。今大会の成果と、日本競泳界の厳しい現状について思いを明かした。

 2001年大会以来、22年ぶりに福岡で開催された大会は新型コロナウイルスの規制緩和もあって有観客で開催。子供向けのイベントも積極的に実施された。会場内には博多祇園山笠の「舁き山笠(かきやまかさ)」が設置されるなど、外国人選手が日本文化を学べる趣向もあった。

 萩野氏(以下萩野) 日本の子供たちと一緒にレースを見たり、水泳教室をやったり、そういった点は日本開催ならではの意義や意味があったのではないでしょうか。海外の選手の友人からは「福岡に来て良かった」などのうれしい声もたくさんもらいました。東京五輪はコロナ禍で選手村と会場の行き来だけしかできなかったので、日本の文化を触れてもらえたことは良かったなと思うし、大会的には大成功だとは思っています。

 競技面では男子400メートル個人メドレーで世界記録を樹立したレオン・マルシャン(21=フランス)、女子200メートルバタフライで連覇を果たしたサマー・マッキントッシュ(16=カナダ)ら、海外勢の若手が躍動。世界トップの実力を目の当たりにした一方で、五輪2大会出場の五十嵐千尋(28=T&G)がSNS上で強化体制に苦言を呈したことが波紋を呼んでいる。

 萩野 いち水泳ファンとして純粋に「大丈夫かな?」という心配な気持ちは、皆さんと同じように持っている。このまま世界に置いていかれたら「日本ってやばいんじゃないの?」と思っています。ただ、そこに対して「こうするべきだ」とは強化部の人間ではないので言えない部分もありますが、結果だけ見てみたら、苦しい結果だったことは間違いない。それは僕たちよりも選手たち自身のほうが感じていることだと思います。

 かつての競泳界は男子平泳ぎで五輪2大会連続2冠の北島康介をはじめ、多くの選手が世界の舞台で活躍。「競泳王国ニッポン」の復活は簡単なことではない。この現状を、リオ五輪金メダリストはどうとらえているのか。

 萩野 僕は強化部に入っていないので、できることは応援をすることだけだし、大それたことも言えないが、この経験を無駄にしないでほしいというのは強く思っています。母国開催の世界水泳で、ある意味苦しい結果で終わったことを良い意味でも悪い意味でもとらえてほしい。もう一回、水泳に関わった全ての人が「何でこうなったのか」をきちんとレビューして分析をすることが大事だと思うし、良い面と悪い面の両方を分析するのが大事なのかなと思います。

 パリ五輪の開幕まで1年を切った。限られた時間の中で、事態を好転させることはできるのか。トビウオジャパンが正念場を迎えている。

子供たちと交流した萩野公介氏(中)
子供たちと交流した萩野公介氏(中)

【水泳を通じて子供たちと交流】「ユニクロドリームプロジェクト世界水泳2023観戦ツアー」でドリームキャプテンを務めた萩野氏は、子供たちと水泳を通じて交流を深めた。会場では子供たちとレースを生観戦。大会の全日程終了後の7月31日には福岡市内で水泳教室を開き、子供たちに世界レベルの技術を惜しみなく伝えた。イベント後には「水泳から学べることは本当にそれこそさまざまだと思う。水泳からつながっていくものを大事にしてほしい」と呼びかけた。