【米ニューヨーク12日(日本時間13日)発】周囲の評価とは正反対に、叩き上げの男に満足感は一切なかった。メジャー開幕2連勝を飾ったメッツ・千賀滉大投手(30)が本紙の取材に応じ、全米を席巻中の「お化けフォーク」の意外な真実を激白。舞台裏ではメジャー挑戦を機に、高みを目指し改良した「新型フォーク」への移行がスムーズに進まず、苦しむ右腕の姿があった。急場をしのいで結果を残したデビュー戦の評価、真価が問われる今後に向けて心境を語った。
勝っても言葉が弾まず、どこか浮かない表情には理由があった。メジャー挑戦1年目、結果がすべての世界で開幕から2戦2勝。はたから見れば、伝家の宝刀「お化けフォーク」にメジャーの猛者たちが翻弄されている――。誰もが疑う余地のない輝かしい光景に見えた。だが、本人の口から突いて出た言葉は、真逆の評価だった。「いや、全然ダメです。今のフォークはお化けでも何でもない。本当に投げ方がよくない。『いいフォークを投げられた』という感覚も本当に全然ないですから」。連勝発進という勝負強さは何よりもたたえられるが、本人に達成感や満足感といったものは微塵もなかった。「最初は絶対に投手有利ですから。僕はずっとそう思ってきた。しかも、2試合とも同じ(マーリンズが)相手。ここからですよ、本当の勝負は。僕はそう思っています」。表情は厳しく、気を引き締める言葉が並んだ。
実は、メジャー挑戦に合わせてフォークの握りを変えていた。それは自ら「すごく落ちている実感があった」と語るほどの新兵器だった。「握りを変えたのは、すべての球種の数値を上げていこうという一環。今はいろんなデータが揃って、それが手に入る時代。データを活用して、それを自分の体に落とし込んだもん勝ちなんです。変化球は自分でつくれる時代で、自分でつくっていくもの。それに対応しないと生き残っていけない」。NPBとはボールも違えば、マウンドも違い、ストライクゾーンも違う。打者の体のサイズも圧倒的に違う。大きな環境の変化に加え、日本よりはるかに進む膨大なデータを駆使した相手の対策・戦略など、最高峰の戦いはシビアだ。壁にぶち当たることを覚悟して、相手よりも先んじるために大きな変化を望んだ。
だが、現実は思うようにいかなかった。2月中旬から順調にスプリングトレーニングを過ごしていたが、3月に右手人差し指の腱炎を発症。握りを変えたことが影響したことを本人も否定しなかった。開幕直前のオープン戦2試合、チーム方針もあってフォークを封印。その間、千賀は大きな決断を下していた。「昔の握りに戻す」。手応えのあった新型フォークへの移行をいったん休止。メッツ入団が決まった昨年12月の段階で内々に通達を受けていた現地4月2日のデビュー戦に向けて、強い責任感を持って最大限の準備を進めた。
繊細な感覚の持ち主。環境が大きく変わる中で、日本で無双した「旧型」をすぐに操れるほど甘くはなかった。マイアミでのデビュー戦、感じたことのない感情を制御し、平常心を取り戻すも人知れず苦闘していた。異様なほどに少ない回転数でナックルのように沈む球、横滑りしながら落ちる見慣れない軌道…。相手のバットが延々と空を切り、スタジアムが沸く一方で、千賀の胸中は穏やかではなかった。何度も気を引き締め、しのぎ切ったご褒美が初登板初勝利。周囲の賞賛と本人の手応えに、大きなギャップがあった真相だ。
本拠地初登板でもニューヨークのファンを熱狂させた。2戦14奪三振、うち「ゴーストフォーク」で12三振を奪った事実を周囲は強調するが、本人は目もくれない。次戦は14日(同15日)の敵地アスレチックス戦。西海岸への初の長距離遠征で連戦が待ち受ける中、自ら真価を問う。振り返れば、NPB育成入団からメジャー最高峰の舞台までかけ上がる漫画のようなストーリーの間、千賀の辞書に「満足」という言葉はなかった。周囲が「お化け旋風」を演出する中、これまで通り自身を客観視する男はひたすら先を見据えている。
「まあ、楽しみにしといてください」。そう言って最後に少しだけ笑った。












