いざ決戦の地へ――。第5回WBC準々決勝が16日に東京ドームで行われ、1次ラウンドB組1位の日本はA組2位のイタリアを9―3で下し、米フロリダ州マイアミでの準決勝に駒を進めた。「3番・投手兼DH」で先発出場した大谷翔平投手(28=エンゼルス)は気迫あふれる投球と頭脳的な打撃で侍ジャパンをけん引。岡本和真内野手(26=巨人)に待望の一発が飛び出し、打撃不振に苦しんでいた村上宗隆内野手(23=ヤクルト)も二塁打2本と復調気配で、本紙評論家の伊勢孝夫氏は3大会ぶりのVに向けて「面白くなってきた」と期待を込めた。

【新IDアナライザー・伊勢孝夫】打って投げての二刀流で野球界の常識を覆してきた大谷が、あらためて勝利への執念だったり、野球脳の質の高さを見せつけてくれた。象徴的だったのが、0―0の3回一死一塁から見せた投前左へのセーフティーバントだ。おそらくベンチの指示ではなく、自分の考えでやったのだろう。

 大谷は所属するエンゼルスがなかなかプレーオフ進出に絡めず、かねて「勝ちたい」と言い続けてきた。負けたら終わりの一発勝負の中で、勝つために自分は何をするべきか考えた上でバントを選択したのだと思う。後ろにも信頼できる打者がそろっており、実際に吉田の遊ゴロで先制し、直後に岡本和の3ランが飛び出した。まさに大谷がプレーでチームを引っ張った格好だ。考えるだけなら誰でもできるが、本塁打を期待される中で、ああいう小技を一発で決める度胸と技術は「さすが」のひと言に尽きる。

 投手としても立ち上がりから気迫がこもっていた。これまで何度も大谷の投球を見ているが、あれだけ1球ごとにうなり声を上げて投げているのは記憶にない。絶対に先制点を許してなるものかという思いが、ひしひしと伝わってきた。2回先頭のパスクアンティノを空振り三振に仕留めたこの日最速の164キロ直球は、ほれぼれするようなボールだった。

 序盤から飛ばしたせいか、5回途中で無念の降板となってしまったが、投打とも大谷の魅力や底力、奥深さが詰まっていた。なるほど海外メディアが「宇宙人」と評するのも、的外れではないのかもしれない。

 心配の種だった村上にも、ようやく二塁打2本と当たりが出た。特に評価したいのは4―2の5回無死一、二塁で初球にバットが出たことだ。とかく不振に陥ると慎重になるあまりファーストストライクに手が出ないもので、これまでの村上もそうだった。7回に逆方向の左にはじき返した二塁打も1ボールからの2球目で、気持ち的に吹っ切れたのではないか。

 やはり1次ラウンドで10打数2安打といまひとつだった岡本も待望の一発を含む2安打5打点と〝らしさ〟が出てきた。特に5回に放った二塁打は、前を打つ村上が初球のストレートを二塁打した直後のスライダーを狙ったもので、バッテリーの心理を読み切った一打だった。野村克也さんのもとでヤクルトの打撃コーチをしていた時に、よくミーティングで「初球のストレートを打たれた直後は、別の球種で入りたくなるもの」という話をしていた。野球というのは人間がやるもので、メジャーの試合でもそうした傾向はある。

 まだ準決勝の相手は決まっていないが、メキシコにしろプエルトリコにしろ、厳しい戦いになるのは間違いない。もちろん決勝もだ。大谷に限らず、1次ラウンドをけん引してきたヌートバーと近藤もマークされているだろう。そんな中で、村上や岡本がどう挽回するか。時差もある不慣れな球場で難しい面が多いのは確かだが、投手は有能なスタッフをそろえているし、総力戦の一発勝負なら強豪国にも引けは取らない。自分たちの培ってきた野球を信じて最後まで戦い抜いてほしい。

(本紙評論家)