元猪木番記者が〝昭和〟の燃える闘魂を振り返る第6回は、アントニオ猪木さんの〝裏切り〟がテーマだ。
米ニューヨーク・ヒルトンのバーだった。猪木さんと酒を飲んでいると、日本人のファンが「あ、猪木だ」と何人か集まってきた。付け人は米国に来ていない。そのため、米国滞在中は記者が臨時付け人として車や航空券の手配、ファンの整理も行ってきていた。毎回「ごめんね、今プライベートなんで」と握手やサインを求めてくるファンをさえぎる記者に、猪木さんは「余分なことさせて悪いな」と話していたものだ。
ところが、その時は違った。猪木さんはファンを止めようとする記者をさえぎって笑顔で握手に応じ、サインまでしてのけるではないか。ファンはもちろん大喜び。その一方で記者には厳しい視線を浴びせてくる。完全に悪者だ。よかれと思ってやったのに、これでは立場がない。
日本に帰って、当時付け人だった蝶野に愚痴ると、さもありなんという顔でこう語った。「あー、やられましたか。俺もありましたよ、何度も。あれはかなわんですよね。猪木さん一流の手というか何というか」
サプライズ、悪く言えば裏切りは猪木さんの十八番だが、それに付き合うほうは大変だということ。そういえば、木戸修も「タッグパートナーなのに突然、平手打ちされるだろ。あれ、参っちゃうんだよな。どうしたらいいかわからなくなっちゃうんだよ」とこぼしていたものだ。
「スター・猪木」は、みんなの我慢と忍耐で成立していたと言っても過言でない?(元プロレス担当・吉武保則)












