いよいよベールを脱ぐか――。2016年のドラフトで5球団が1位指名で競合したソフトバンクの田中正義投手(26)が〝待ったなし〟の5年目を前に覚醒を確信している。

 4年連続日本一を成し遂げた常勝軍団にあって〝ドラ1〟の肩書は選手生命を伸ばす材料にならない。実際に今オフは13年のドラフト1位で18年に救援でリーグトップの72試合に登板した加治屋と、17年の1位で高卒3年目の吉住が戦力外となっている。

 今季の田中は春季キャンプA組スタートも右ヒジ痛を発症。新型コロナ禍の影響もあり、復帰まで長期化した。それでも10月に実戦復帰を果たすと、二軍戦4試合すべてで無安打無四球の完全投球。11月1日のウエスタン・リーグ阪神戦では自己最速156キロをマークした。

 同7日のファーム選手権を含め、最後の3試合はクローザーで起用された。倉野信次ファーム投手統括コーチ(46)は起用意図について「一軍と比べて緊張感や気持ちの高ぶりが決して大きくない二軍で、それを感じられる数少ないポジション。だから、僕が一番最後を託すというのは、それなりのメッセージと意味がある」と切り出し、田中を指名したのは「見てもらえば分かる通り、誰よりも一番すばらしい球を投げているから。期待というより、そこを託されるにふさわしかったから」だと言う。

 豪腕ゆえに肩、ヒジの負担が大きく相次ぐ故障に悩まされた。リスクを減らすため入団当時から田中は「ロスのない、効率的な投げ方」を模索。「この4年追い求めてきたものが実を結びつつある」。技術的課題だった変化球の精度、投球時の緩みも改善。「一軍で抑えるために必要なもう一つの武器」という切れ味鋭いスライダーの習得も〝ファーム無双〟の理由だった。

「過ぎてしまった時間は取り戻せない。だから前を向いて投げていく」。うまく歯車が回り始めたかと思えば故障で道を阻まれ、苦悩の連続だった4年間。だが、今は「人生で一番いい球が投げられている。だから、自信があると言える」。球春到来が待ち遠しいことだろう。