虎指揮官が胸に秘めた野球の“原点”とは――。昨季、18年ぶりのリーグV、38年ぶりの日本一を達成した阪神・岡田彰布監督(66)にはお決まりのフレーズがある。「普通にやる」。オフでもペナント中でもポストシーズンでも何度も口にした言葉だったが、そこには岡田野球の神髄が込められていた。
「普通」――。これを細かく解釈すると「当たり前のことを、当たり前にこなすこと」。野球でいえば「しっかり投げて、しっかりと打ち返す」となる。ただ、やり続けることは難しい。その半面、ブレずに継続すれば必ず報われる。そう確信したのが66年の野球人生で唯一、関東で生活した早大時代だ。
1年春からリーグ戦に出場し、江川卓を擁する法大に勝つために徹底的に守る、コンパクトに打ち返すといった野球の基本動作を反復した。ただし、プレーの一つひとつに必ず「正確に」の注釈がつき、その精度の高さも尋常ではなかった。
ボール回しは1時間。内外野のシートノックでは中継プレーの時間をストップウオッチで測定し、限界まで「速さ」を求められた。少年野球でも行うトス打撃もしかり。投げ手は相手がスイングできるゾーンに投じ、打つ側は必ずワンバウンドで投げ手に打ち返す。“ノーミス”で100周。失敗すれば連帯責任の罰走もあった時代で、地道な鍛錬を積めば“紙一重”の勝負を制することを知った。
勝ち点を挙げた方が優勝の1978年秋の早慶戦。慶応の2本の適時打となる当たりを内外野の中継プレーで防ぎ、3―0で完封勝ちした。これまでにない成功体験に、当時悟ったように口にしたのは「俺はこれまで何一つ、野球を知らなかった」。野球は点を取られなければ負けないが、何点取ってもそれ以上に取られたら勝てない競技だ。以後、プロ16年間の現役生活、その後の指導者や評論家時代も変わらぬ「守り勝つ」野球観が根付いた瞬間だった。
「昔と今では“野球”が違う」。岡田監督が指揮官に復帰した当初、データや動画解析などを用いた最新の野球理論をうたうプロの指導者の中からは手腕を疑問視する声も上がった。だが、熟練指揮官は真っ向から反論した。
「ベースまでの距離も、マウンドからバッターボックスまでの距離も変わることはない。プレーの基本がちゃんとできて、そっからのいろんな応用。だからもろいんや。データや機材だけに頼るヤツらは。崩れた時にな」
勝つことで自らの野球の正当性を証明するとともに、3度目となる今回の現場指揮では、孫ほども年齢が離れた20代の選手たちに取り組んでもらいたいテーマがあった。それは野球の「学び直し」だ。
「俺らが昔から普通にやってたことでも、今の選手に言うたら新しいことになる。そんな新しいことなんかないのに(笑い)。でも、そういうことを積み重ねていくと、また改めて野球に興味を持つやろ? それはまた野球がうまくなるチャンスでもあるんやで」
攻撃では「打者はセンター返し」「打てないなら四球で出塁」「ボール球を振らない」。守備では「取れるアウトを確実に」「投球は両サイドの低め」「野手の送球は低く」などなど…。選手たちも岡田監督に言われなくても知ってはいたはずだ。しかし、頭では理解できていても2年前まではグラウンドで徹底できていなかった。
昨季は成功体験を重ね、38年ぶりに最高の栄誉を手にした。野球に今も昔もない。最強を証明した「普通にやる野球」で球団史上初となる連覇に挑む。












