奇跡の大逆転への〝フラグ〟なのか――。北京五輪のフィギュアスケート男子で3連覇が懸かる羽生結弦(27=ANA)が8日のショートプログラム(SP)でジャンプを失敗するなど95・15点の8位と大きく出遅れ、金メダルは厳しい状況となった。しかし、勝負はまだ終わっていない。五輪で続く〝逆襲の法則〟を羽生が再現できるのか、フィギュア界の重鎮の証言から徹底検証した。


 絶対王者の3連覇への道のりに思わぬ〝落とし穴〟が待っていた。

 冒頭の4回転サルコーで、なんとスケート靴のブレードが氷上の穴にハマって1回転となってしまったのだ。続く4―3回転の連続トーループ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は着氷させたが、最初のジャンプが「0点」という大きなマイナスが響き、出遅れてしまった。

 演技を終えた羽生は「踏み切りの直前に自分の(ジャンプでできた)穴ではなく、他のスケーターの穴が存在していてガコっとはまってしまった」と説明。技術とは無関係の〝ハプニング〟とも言えるだけに「自分の感覚の中でミスじゃない」と割り切っている。落ち込む様子も一切なく「氷に嫌われちゃったな」と苦笑い。勝負となる10日のフリーへ向けて「氷に引っかからないように。一日一善だけじゃなくて、もう本当に〝一日十善〟ぐらいしないといけないのかな」と〝羽生節〟で語る余裕さえ見せた。

 世界最高となる113・97点をたたき出したネーサン・チェン(米国)との点差(18・82点)を考えると3連覇の偉業は絶体絶命の窮地。それでも希望はある。羽生には「夢」のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)があるからだ。

 世界初成功の可能性について元国際審判員の杉田秀男氏は「十分にあり得ると思います。練習を見ていても体は回り切っている。時間の問題でしょう」と太鼓判。それを踏まえて別の視点からも「夢」への期待感を口にする。

「前回の平昌五輪ではネーサン、その前のソチ五輪では浅田真央さんがSPで崩れた後に、フリーで完ぺきな演技を見せました。おそらく羽生選手も持っている能力をフリーで全て出してくる気がしますね」

 平昌五輪のSPではチェンが全てのジャンプを失敗して17位となったが、フリーは4回転5本という驚異の演技で1位。総合5位まで押し上げ、ここから3年8か月も無敗街道を突っ走って世界王者に君臨した。

 ソチ五輪の真央もSP16位に沈んだが、翌日に「フィギュア史上最高」と世界中にたたえられた伝説のフリーを披露。杉田氏は「本当に歴史に残るパーフェクトな演技。フリーは3位でしたが、僕は今でも1位だと思っています」と振り返る。

 一方、元全日本選手権4連覇王者の小川勝氏はどうみるのか。今回の羽生のSPを踏まえて「ソチ五輪の真央ちゃんや、平昌五輪のネーサンのような〝失敗〟ではないと思いますね。ものすごく落ち着いていたし、他のジャンプも安定していた。たまたま運が悪かっただけでしょう」と〝違い〟を指摘する。

 そのため、フリーへ向けては逆襲というニュアンスではなく「単純に自分の実力を示すだけ。普通にやれば出来栄え点はネーサンより数段、上でしょうから」。気持ちの面で状況が異なり、等身大の王者の演技に期待を寄せた。

 さらに4回転半に関しては「(昨年12月の)全日本選手権でやった時より、テクニック的には一歩も二歩もバージョンアップしています」と成功の可能性が高まっていると分析。「全日本よりプレッシャーがかかる五輪の舞台なので、大技をトライする時点で体力が消耗する。それが他のジャンプにどう影響するか? そのあたりがカギになるでしょう」と演技全体をどうまとめるかがフリーのポイントになりそうだ。

 果たして羽生の一世一代の快演は見られるのか。日本中が信じている。