滋賀・彦根市の河瀬駅前交番で昨年4月、上司の井本光巡査部長(41=当時)を拳銃で射殺したとして、殺人と銃刀法違反の罪に問われた元巡査の男(20)の裁判員裁判初公判(伊藤寛樹裁判長)が30日、大津地裁で開かれた。

 現職警察官による前代未聞の同僚殺害に、44席の一般傍聴席を求め、272人が集まった。元巡査は事件発生時に19歳だったことで、氏名は伏せられた。

 元巡査は上下黒のスーツに青のネクタイ、短髪姿で入廷。元高校球児で体格はがっちりとしているが、横顔にはニキビの痕も見られた。起訴内容を「その通りです。間違いありません。私からは以上です」と認めた。

 検察側は冒頭陳述で「井本さんから書類の作成で訂正を求められ、怒り、うっぷん、自尊心を傷つけられた。事件当日にも叱責され、不満が爆発し、射殺を決意した」と指摘。背後から後頭部を的確に射撃し、発覚を遅らせるため、交番に施錠するなど、犯行前後の行動は合理的で責任能力はあり「動機は短絡的で自己中心的だ」とした。

 一方、弁護側は罪状については争わず、心神耗弱の状態だったとして刑の減軽を求めた。「書類作成がうまくいかず、井本さんから、たびたび指導を受けた。ビクビクして眠れなくなり、心と体がボロボロになった。家族にも弱音を吐けず、自分をコントロールできなくなり、井本さんを殺したら楽になるという考えになった」と主張。当日は眠れないまま出勤し、井本さんから「お前がアホなんは親がアホなんちゃう?」と言われ、凶行に及んだとした。

 同交番に勤務し、証人として出廷した警察官は井本さんについて「書類作成に関しては細かい人だとは聞いていたが、理不尽ではない。多少、声は大きいが怒鳴るほどのものではなく、暴言もない」と語った。これに元巡査は時折、顔を紅潮させるような場面もあった。