神戸が誇るカリスマの意外な“魔術”とは――。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)1次リーグ(12日)、G組の神戸はジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)に5―1と圧勝発進したが、やはりその中心にいたのは元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(35)。世界を魅了した技術に加え、アジアの舞台で有効な武器も隠し持っていた。

 神戸にアジア初白星をもたらしたのは、やはりこの男だった。

 前半13分に自陣から驚異のロングパスでFW小川慶治朗(27)の先制点をアシストすると、後半13分には左サイドで華麗なステップから相手の逆を突くタイミングでDF酒井高徳(28)へスルーパスを送り、小川の2点目をお膳立て。極め付きは27分、ペナルティーエリア内で右サイドを突破すると絶妙のタイミングで相手GKの背後を突くクロスを入れ、小川のハットトリックをアシストした。

 要所で冴え渡る超絶テクニックの数々に、観戦した三木谷浩史会長(54)も「すごい? 本当だね。魔術師なんでね」と絶賛。スペイン代表として2010年南アフリカW杯を制覇し、名門バルセロナで世界最強軍団の中心として活躍した実力を、自身初となるアジアの舞台でも存分に発揮した。

 だが、すごさはこれだけではない。審判との“交渉術”においてもイニエスタの世界レベルを体感しているのが、日本代表やドイツ1部で国際舞台を経験してきた酒井だ。「自分が主将をした経験からも審判と密にコミュニケーションを取ることの重要性を理解しているが、アンドレスは本当に長い間、偉大なチームでやっていただけのことはあるなという対応をしている」

 イニエスタは自身のプレーにおける判定はもちろん、同僚が関わる判定にも積極的に審判のもとへ足を運び、会話を交わす。主将という立場だけに当然の行動だが、時間の使い方だけでなく、判定によって表情や言葉を強弱をつけて使い分ける。独特な間合いで審判と駆け引きし、流れを引き寄せて試合を支配していく。これこそが、世界の頂点を知る男の真骨頂なのだ。

 アジアの舞台はこの特殊能力が絶大な効果を生み出す。DF渡部博文(32)が「アジアでは審判の笛とかも影響してくる」と指摘するように、日本勢はACLで韓国や中国などの敵地で何度となく不可解判定に泣かされてきた。中東系の国から派遣された審判団の場合には、日本代表も苦しめられた“中東の笛”にも悩まされる。だがイニエスタの交渉術があれば、審判にとっては世界的スターと対峙する緊張感も手伝って“イニエスタの笛”を誘引できる可能性すらある。

「チームとしても個人としても良いデビューを迎えられた」と初戦を振り返った背番号8。アジア制覇に向けて期待は膨らむばかりだ。