女子プロレス「スターダム」は、26日名古屋国際会議場大会で団体史上初のケージマッチを行う。「STARS」の岩谷麻優、コグマ、葉月組対「クイーンズ・クエスト」の林下詩美、上谷沙弥、AZM組戦などが決定。明るく華やかな団体スターダムが、プロレスの究極形式でどんな「現在系」のケージマッチを見せてくれるのか、期待は高まる一方だ。

 女子プロレスの長い歴史では、多くの金網マッチが行われているが、全日本女子プロレス1990年11月14日、横浜文化体育館の“女帝”ブル中野対アジャ・コングの金網デスマッチが圧巻の存在感を放ち、今でも「伝説の死闘」として語り継がれている。

 当時、ブルは悪役の枠を超えた圧倒的な存在として女子プロ界に君臨し、獄門党から独立したアジャとの抗争がピークに達していた。90年9月1日大宮スケートセンターで決着をつけるべく金網デスマッチで激突するも、ユニバーサル・レスリングに所属していたレフェリーのブルドッグKT(現在の新日本プロレス・外道)が、アジャ寄りの裁定でブルのリングアウト負けを宣告し、事態は大紛糾。11月横浜のノーレフェリー金網デスマッチによる再戦が決定した。

 この試合、ブルは何と4メートルの金網最上段からダイビングギロチンドロップを敢行。アジャをKOして女子プロ史上、前例のない「伝説」を作り上げた。本紙は「狂乱ブル、アジャを刺殺寸前血だるまKO」の仰々しい見出しでこの一戦を報じている。

「注目のブル中野対アジャ・コングの金網ノーレフェリーデスマッチは20分59秒、ブルがアジャを完全KO。金網脱出に成功して勝利を決めた。先手を取ったのはアジャ。いきなりハサミでブルの髪の毛をバッサリ切り捨て、場外攻撃から裏拳19連発。ブルは早くも大流血だ。反則自由とあってリング上には一斗缶、ヌンチャク、ロープなどが投げ込まれる。ヌンチャクを握ってからはブルのペース。信じられない光景が起きたのは10分過ぎだ。ブルがハサミでアジャの右腕を突き刺したのだ。ザックリ傷口が開き、アジャは声にならない悲鳴を上げる。お互いがチェーンで首を縛りつけて、エスケープしようとする相手を引きずり下ろす。20分過ぎにブルが勝負に出た。何と金網最上段に上り、ギロチンドロップを敢行したのだ。4メートルの急降下弾。アジャはピクリとも動けず、ブルが金網脱出に成功した」(抜粋)

 記者はこの試合を取材したが、ブルはダイビングする直前、両手を合わせて合掌した。その姿はまるで死を覚悟したような、祈りをささげるような異様なオーラに包まれていた。リング下ではセコンド陣が泣きながら金網が揺れてバランスが崩れないよう、必死に総出で金網を支えている光景も印象的だった。

 ギロチンが決まった瞬間、115キロのブルの巨体が一瞬、リバウンドした。それほど強烈な一撃で、全身に鳥肌が立った。試合後の表情には勝った喜びよりも「戦場から生還した」という安堵感が満ちていた。その横顔はどこか神々しさすら漂った。

 勝つには勝ったが、後日には背骨が欠ける重傷を負っていたことが判明。まさに体を張って命をかけた「死闘」だった。ブルは2年後の92年7月30日水戸で北斗晶と金網デスマッチを行うも、4メートルダイビングギロチンをかわされ、逆に北斗の金網最上段からの驚異のミサイル弾を浴びて敗戦。北斗は一気に団体対抗戦の主役に躍り出るが、それはまた別の話だ。アジャ戦の伝説は全く色あせることはない。ブルは女子プロ史上に残るまぎれもない「不世出のレジェンド」だった。(敬称略)