昭和史に残るストロング小林さんの偉業 マット界とマスコミの運命を変えた「引き抜き騒動」

2022年01月07日 05時15分

日本中のファンの熱い視線を集めたアントニオ猪木(左)とストロング小林の調印式(東スポWeb)
日本中のファンの熱い視線を集めたアントニオ猪木(左)とストロング小林の調印式(東スポWeb)

 昭和の伝説がまた一つ消えた。元プロレスラーの「ストロング小林」こと小林省三さんが、昨年末に死去していたことが分かった。81歳だった。1974年2月、エースとして活躍していた国際プロレスを退団。同年3月に東京・蔵前国技館で行われた新日本プロレスのエース、アントニオ猪木との「昭和の巌流島」はプロレス史に残る名勝負だった。当時、本紙国際プロレス担当として小林さんを取材したプロレス評論家の門馬忠雄氏(プロレス大賞選考委員)が、昭和史に残る小林さんの偉業を振り返り追悼した。

 小林さんは1966年に国際プロレスに入門。翌67年に日本初の覆面レスラー「覆面太郎」としてデビューした。68年から素顔に戻ると、187センチ、125キロの体格からなる驚異的なパワーを武器に団体の大黒柱として大活躍を見せた。

 当時の小林さんについて門馬氏は「人間的にとてもいい人。寡黙なように見えておしゃべりが好きで、話し出すと止まらないところもあった。でも世渡りが下手で、ぶきっちょなタイプだったかな。車が大好きで、巡業中もバスに乗らずに自分で車を運転して移動していた。プライベートを守るというのか。そういうところが、団体で孤立してしまった理由かもしれない」と振り返る。

 74年2月。小林さんは突如、国際プロレスに辞表を提出した。現場を仕切っていたグレート草津さんとの確執が一因だったという。小林さんの活躍と知名度は、他団体やテレビ局にとって非常に魅力的で、〝引き抜き〟〝引き抜き阻止〟の大騒動になった。

 国際プロレスは契約違反を主張。戦場を失いかけた小林さんに、極秘で動いていた東京スポーツが仲裁に入り、違約金として1000万円を国際プロレスに支払った。小林さんはフリーを経て、一時的に東スポ所属レスラーに。その後、新日本プロで活躍した。

「あれは昭和の事件簿だよ。私は小林の離脱に大きなショックを受けて、今でも心に突き刺さっている。当事者だったのに、自分の会社が仲裁することを知らなかった。蚊帳の外だったんだ。あれが東スポを退社する一つの引き金だったね」。団体、関係者、テレビ局、そして記者やマスコミの運命も大きく変えるほど、小林さんのマット界での輝きは強烈だった。

 74年3月、伝説の一戦を迎えた。東京・蔵前国技館で猪木の持つNWF世界ヘビー級王座に挑戦。当時は異例の日本人選手同士、団体エース同士のタイトルマッチで大きな話題となり「昭和の巌流島」と呼ばれた。90分1本勝負の〝決闘〟は猪木の技と小林の力がぶつかり合い、手に汗握る死闘になった。

 小林は場外戦で猪木の額を割って大攻勢に出たが、最後はバックドロップからジャーマンスープレックスホールドを浴びて29分30秒、フォール負け。フィニッシュのジャーマンでは、小林の巨体を投げ切った衝撃で猪木の両足が宙に浮いたほどだった。「昭和の巌流島」は第1回の東京スポーツ新聞社制定プロレス大賞年間最高試合賞(ベストバウト)にも選ばれ、プロレス史に残る屈指の名勝負とされている。

 その後、小林さんは米WWWF(現WWE)などでも活躍し、84年に引退。引退後は「ストロング金剛」の芸名で、タレントとしても人気を博した。芸能活動引退後は脊髄損傷の重傷を負い、数年前から寝たきりの生活を送っていることが明かされていた。

 門馬氏は引退後も小林さんと交流を続け、自宅にも何度か訪れたという。「猫が好きでね。猫ちゃんと一緒に生活していたよ。『澤乃井』という日本酒の名酒があるんだけどね、それをうちに送ってくれて。以来、澤乃井が私の中でのお気に入り。もっと一緒に飲み続けたかった。ご冥福をお祈りします」

 多くの人の心を揺るがし、いつまでも深く思い出に残る希代の名レスラーだった。
 
☆ストロングこばやし 本名・小林省三。1940年12月25日生まれ。東京・青梅市出身。ボディービルから66年に国際プロレス入り。67年にマスクマンの「覆面太郎」としてデビューしたが、翌年から素顔でファイト。持ち味のパワーを武器に、海外遠征中にIWA世界ヘビー級王座を奪取し、帰国後は国際プロのエースとして君臨。74年2月に国際プロを退団し、同年3月に新日本プロレスのエース、アントニオ猪木と「昭和の巌流島」で激突したが敗戦。12月の再戦でも敗れ、75年に新日本に入団。坂口征二とのタッグで活躍した。84年に引退し「ストロング金剛」の名でタレント、俳優としても活動した。得意技はブレーンバスター、カナダ式背骨折り、ベアハッグ。現役時代は187センチ、125キロ。

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