【ラオウを覚醒させた男・根鈴雄次氏に聞く(2)】オリックスの「ラオウ」こと杉本裕太郎外野手(30)を、昨季の本塁打王に導いたのが、MLB元エクスポズ傘下3Aオタワなどで活躍した根鈴雄次氏(48)だ。

 根鈴氏の元には昨オフ、オリックス・後藤、山足、日本ハム・清宮、万波、阪神・江越ら多くの選手が訪れ、技術向上に取り組んだ。従来の日本野球には存在しなかったスイング形成へのアプローチ。プロが大事な時期に直接、教えを乞うという事実が根鈴氏への信頼を表している。

 根鈴氏は若かりし日、メジャーを目指したスラッガーだった。単身渡米し最底辺からメジャー目前の3Aまで這い上がった。2000年には日本人初のメジャー野手となるチャンスもあったが、夢はかなわなかった。

 だが、その後もメキシコ、オランダ、日本など計5か国で現役、指導者として技術を磨き続けた。そして40歳となった13年にユニホームを脱ぎ、今度は打撃の極意を継承する道を選んだ。自らがたどり着けなかった境地を後進に託したのだ。

「エンゼルスのマイク・トラウト(年俸40億円超)のバットスイングなどはもう、日本の従来の打撃理論では作れない。いわゆる縦振りですね。ゴルフの胸郭の使い方とほぼ一緒。クリケットでワンバウンドの投球を打つ技術とも一緒ですね」。そう話しつつ、道具を持つ腕はいまだにたくましい。

 さて、その縦振りスイングとは何か。野球、ゴルフの両方を経験した者ならイメージできるかもしれないが、端的には分かりづらい。そこで根鈴氏は投球軌道を「流しそうめん」に例える独特の表現でスイング理論を解説してくれた。

「流しそうめんの傾いている竹を投球軌道と想像してください。マウンド上の投手のリリースポイントの高さから、18・44メートル先のホームプレートに向かい角度をつけて麺が、ビュンと150キロの速さで流れてくるイメージです」

「そのそうめんを竹の横で打席に立つように箸を構えて、横から点で麺をつかもうとすると難しすぎるでしょ。これが従来の横振りのスイングのアプローチです。でも、竹のラインに沿ってズボッと箸を立てておいて麺を取りにいくと簡単に捕まる。これが縦振りでいく場合のイメージです」

 リリースの瞬間から投球軌道を予測。ボールが手元に届くまでの0・4秒の間にバットを縦振りでラインに入れる。バットの打球部がロフトのあるクラブヘッドの役割で投球を捉えると、理論上はライナーしか打ちようがない打法となる。

 この理論を元にラオウ杉本は本塁打王になった。すべてにおいて万人に通用するものはないかもしれないが、一人のバットマンの人生を変えてしまったのは動かぬ事実だ。

☆楊枝秀基(ようじ・ひでき) 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。